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レティシア書房店長日誌

森田真生「僕たちはどう生きるか」
 
 京都在住の数学者森田真生が、2020年パンデミックの発生で、急激な変化を余儀なくされた世界を目の前にして書いた日記からこの本は始まります。(古書1300円)
 

 「これまで国内外を忙しなく旅しながら、数学にまつわるレクチャーやトークをすることを生きがいとしてきた。その僕がなぜ、にわかに京都の山の麓で生き物の世話に明け暮れているのか。僕は世捨て人になって、虫や植物と余生を過ごそうとしているのではない。新興のウィルスが世界中に広がり、気候が人類の経験したことのない速度で変動していくこの時代に、果たしてどのように生きていくのか、模索する日々だ。これまで反復していた自然がかつてのように反復しなくなり、当たり前にいたはずの生き物たちが次々と滅びていく世界で、心を壊さず、しかも感じることをやめないで生きていくいくためには、大胆にこれまでの生き方を編み直していく必要がある。」
 緊急事態宣言のために、家に留まることになった環境で、未来へ繋がる思考を展開させていきます。そして、自分の子どもたちの自然界への素朴な疑問に真摯に対応します。足元の多様な生物たちに触れ、遊び、驚き、異種との交流を十分にやり尽くす充実した日々が、綴られていきます。
 「植物でもいい。ミミズでもいい。子どもでも、隣人でも、家族でもいい。自分でないものがいきいきと生きることができるようにと願う。それは、植物に、ミミズに、子どもの喜びを与える行いである前に、自分自身に喜びをもたらす行為なのである。 人は、自分だけにのためになる行動からは、喜びを得ることができない。それは人が弱い存在だからだ。人は、自分だけのために生きて、それで幸福になれるほど強くない。」
 ウイルス、気候変動、破壊される生態系。従来通りの考えが通用しなくなった世界で、様々な識者の理論を紹介しながら自らの思考を確立していきます。そして、協生農法を提唱する研究者・舩橋真俊、歴史学者・藤原辰史、植物観察家・鈴木純、土の研究者・藤井一至ら国内の有志と出会い、対話を重ね、さらに思考を磨いていくのです。
 イタリアの植物学者ステファノ・マンクーゾの著書「植物は『未来』を知っている」の中から、緊急事態に直面した時、動物が第一に取るのは逃げる、その場からいなくなる、という行為に対して、植物にはそれができない、という指摘を紹介しています。
 「植物は、環境から逃げずに、その場にいながら問題を解く。このため、『並外れて優れた感覚』を磨いてきた。その場にいることを選んだ生き物にとって、その場で何が起きているかを精密に把握することこそ、死活問題だからである。 パンデミックや地球規模の環境の大変動に対して、僕たちはすぐに逃げることはできない。これらは、『どこか別のところへ行く』という仕方で回避できない問題なのだ。だからこそ僕たちは植物に学ばなければならない。ここでないどこかに行くためでなく、すでにいるこの場所をいままでより精緻に知るためにこそ、資源とエネルギーを大胆に投下していくのだ。」
 私たちが直面する世界を見つめ、生きてゆく方法を示唆する一冊です。

●レティシア書房ギャラリー案内
11/13(水)〜11/24(日)「Lammas Knit展」 草木染め・手紡ぎ・手編み
11/27(水)〜12/8(日)「ちゃぶ台 in レティシア書房」ミシマ社
12/11(水)〜12/22(日)「草木の色と水の彩」作品展

⭐️入荷ご案内
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「オフショア4号」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」

いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
青木真兵・光嶋祐介。白石英樹「僕らの『アメリカ論』」(2200円)
「つるとはなミニ?」(2178円)
「ちゃぶ台13号」(1980円)
坂口恭平「自己否定をやめるための100日間ドリル」(1760円)
「ヴィレッジ・コード ニセコで考えた村づくりコード45」(1980円)
「トウキョウ下町SF」(1760円)
モノ・ホーミー「線画集2『植物の部屋』(770円)

モノ・ホーミー「2464Oracle Card」(3300円)
古賀及子「気づいたこと、気づかないままのこと」(1760円)
いしいしんじ「皿をまわす」(1650円)
黒野大基「E is for Elephant」(1650円)
ミシマショウジ「茸の耳、鯨の耳」(1980円)
comic_keema「教養としてのビュッフェ」(1100円)

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