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レティシア書房店長日誌

茨木のり子「詩のこころを読む」
 
 本書は、岩波ジュニア新書シリーズとして発行された一冊です。「ジュニア新書」は、岩波新書愛読者層よりも下の世代の中高生向けに出されているものですが、もちろん大人の読書にも十分なシリーズです。詩に少し興味があるんだけれど、何を読んでいいのかわからない方にはお勧めします。単に名作と呼ばれているものの羅列ではありません。「生まれて」「恋唄」「生きるじたばた」「峠」「別れ」という抽象的なタイトルに分けられていて、そこにふさわしい作品をが選ばれています。(古書400円)
 

 「詩は感情の領分に属していて、感情の奥底から発したものでなければ他人の心に達することはできません。どんなに上手にソツなく作られていても『死んでいる詩』というのがあって、無残な屍をさらすのは、感情の耕しかたがたりず、生きた花を咲かせられなかったためでしょう。」
 「いつも思うのですが、言葉が離陸の瞬間を持っていないものは、詩とは言えません。じりじりと滑走路を滑っただけでおしまい、という詩でない詩が、この世にはなんと多いのでしょう。」
 詩人ならではの、詩作に対する真摯な思いが綴られていますが、この解説だけを読むと難しく、詩を作ったことのない者にはすんなり理解というわけには行きません。しかし選ばれた多くの詩は、著者の美意識、哲学にかなったものばかりで、一つ一つの作品について作者の背景が丁寧に書かれ、詩の深い読み取り方に頷きます。
 私が最も印象に残ったのは、金子光晴の「寂しさの歌」でした。P142~P156まで及ぶ長い長い作品です。書かれたのは昭和25年5月5日。その3ヶ月後に敗戦を迎えます。
 「どつからしみ出してくるんだ。この寂しさのやつは。
  夕ぐれに咲き出たやうな、あの女の肌からか。」
という詩語で始まります。
 
 「誰も彼も、区別はない。死ねばいいと教へられたのだ。
 ちんぴらで、小心で、好人物な人人は、『天皇』の名で、目先まつくらになって、腕白のようによろこびさわいで出ていつた。」
 「黙々として忍び、乞食のやうに、つながって配給をまつ女たち。
 日に日にかなしげになつてゆく人人の表情から 国をかたむけた民族の運命の これほどさしせまった、ふかい寂しさを僕はまだ、生まれてからみたことはなかつたのだ。」
 これを選んだ茨木は「書きうつし終えたら、どっと疲れてしまったほど長い長い詩。大河のうねりにように迫力のあるこの長編詩は、けれど少しのたるみもなく、読む人を乗せて大海へと流れ入るような感銘を与えてくれます。」と書き、さらに「『寂しさの歌』はその題名にもかかわらず、全体を支えているのは憤怒に近い怒りの感情で、それがきわだった特徴です。」と解説しています。
 当時、金子は山梨県の山中湖に疎開していて、発表するあてもなくこの作品を書いていたそうです。見つかれば逮捕されるような反戦の作品であり、日本人へ、人間へ向けた怒り。読んだ時には私も疲れましたが、再度読み返すと、その力強さと、詩人の強靭な精神を感じました。この詩と出会えただけでも、いい読書をしたと思いました。

●レティシア書房ギャラリー案内
8/21(水)〜9/1(日) 「わたしの好きな色」やまなかさおり絵本展
9/4(水)〜9/15(日) 中村ちとせ 銅版画展
9/18(水)〜9/29(日) 飯沢耕太郎「トリロジー冬/夏/春」刊行記念展
10/7(水)〜10/13(日) 槙倫子版画展

⭐️入荷ご案内
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本3」(660円)
「超個人的時間紀行」(1650円)
柏原萌&村田菜穂「存在している 書肆室編」(1430円)
稲垣えみ子&大原扁理「シン・ファイヤー」(2200円)
くぼやまさとる「ジマンネの木」(1980円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)
岡真理・小山哲・藤原辰史「パレスチナのこと」(1980円)
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
向坂くじら「犬ではないと言われた犬」(1760円)
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
坂口恭平「その日暮らし」(ステッカー付き/ 1760円)
「てくり33号ー奏の街にて」(770円)
「アルテリ18号」(1320円)
「オフショア4号」(1980円)
「うみかじ9号」(フリーペーパー)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)

 

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