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点子ちゃんとアントン

海外児童文学、続いての1冊はドイツの偉大な作家、ケストナーの『点子ちゃんとアントン』。

ケストナーといえば、『エミールと探偵』『飛ぶ教室』『2人のロッテ』などの方が有名ですが、ケストナー作品で私が最初に読んだのがこの『点子ちゃんとアントン』なのでこちらを選びました。
何より主人公の点子ちゃんがとってもユニークな女の子なので、今でもお気に入りの1冊です。

まずはあらすじなど。

ベルリンでステッキ工場を経営する裕福な家に生まれたルイーゼ・ポッゲは、生まれた時にとても小さかったからという理由で点子ちゃんと呼ばれています。
父親はいつも仕事で忙しく、母親はパーティに観劇にと毎日遊び歩いていて、点子ちゃんのことはほったらかし。時折食事の時に近況を尋ねる程度。点子ちゃんの話し相手は住み込みの養育係、アンダハトさんと家政婦のベルタ、それに飼い犬のピーフケぐらい。
そんな点子ちゃんにはアントンという男の子の友達がいます。アントンは母子家庭で、母親が病弱で満足に働けないので、アントンが代わりに家のことをしています。アントンの家に遊びにいった点子ちゃんは、アントンが慣れた様子で料理をする姿に感心しきり。
そんな点子ちゃんとアントンにはある秘密があります。
お家でなぜかマッチ売りの少女ごっこをしている点子ちゃん。実は点子ちゃんはアンダハトさんとと一緒に、みすぼらしい格好に変装して夜こっそり家を抜け出しては、二人で目の見えない母親とその小さな娘のふりをして、路上でマッチ売りをしているのです。アンダハトさんの彼氏、ローベルトはいわゆるダメ男で、点子ちゃんはアンダハトさんがローベルトに貢ぐお金を稼ぐ手伝いをしているのです!
もちろん両親は点子ちゃんががこんなことをしているなんて知りません。そして点子ちゃんがマッチ売りをしている道の向かい側ではアントンが病気の母親に代わって稼ぐために靴紐を売っていました。
夜働いて家のこともしているため、アントンは学校で授業中に居眠りしてしまったり成績もさがったり。担任のブレムザー先生はそんなアントンを問題だと思い、アントンの母親に手紙を書くと言い出します。点子ちゃんはブレムザー先生にアントンの事情を話して手紙を書かないように頼みます。そしてアントンが傷つかないように、自分が事情を先生に話したことは言わないでほしいともお願いするのです。
ただこんなことは長くは続けられません。マッチ売りの件を点子ちゃんの両親の知るところとなってしまうのですが、同じ頃ローベルトは更なる悪巧みをしていて……

といったようなお話です。

まず点子ちゃんとアントンの友情がとってもいいんです!
お金持ちのお嬢さんと貧しい家の男の子ですが、点子ちゃんもアントンもそんなことには縛られていません。対等な仲良し同士で、ごくごく自然に友情を育んでいるのです。
点子ちゃんもアントンもどこか大人びていて、大人たちをよく観察しています。点子ちゃんは両親もアンダハトさんもどこか突き放したような冷静な目で見ているようなところがあるし、時折お愛想程度に自分に関心を向ける両親への返事もウィットに富んでいて面白い。
大人になってからしかこの本を読んでいなかったとしたら、点子ちゃんのことを、こまっしゃくれた生意気な子だと思ったかもしれませんが、同じ子供の目線で見ると、大人たちにうまい切り返しをする点子ちゃんが格好良く見えたんですよね。
そしてたくましくて自立心にとんだアントンも素敵です。アンダハトさんのしていることを良くないことと思いながらも、面白がって付き合っている点子ちゃんをちょっと心配している風なのもまたいいんですよ。
大人の思う子供でなく、ちゃんと子供を描いているのがケストナー作品のすごいところですよね。
いわゆる“子供らしい子供”として子供を描かずに、悪賢かったり大人を批判的に見たりする生意気さをそのまま描いているところが魅力です。そして実際このケストナーの描く子供の方がリアル。
この2人の友情で1番いいのは、お互いの抱えるものを知りながら、憐れんだり同情したりするのは間違っている、相手に失礼だ、と2人がわかっているところだと私は思います。
子供ながら自分の足で立とうとしている点子ちゃんとアントン。この2人に安っぽい同情など必要ないし、2人は絶対に可哀想な子供ではないのです。
裕福でも両親に顧みられない孤独な子供、病弱な母親を抱えて貧しい暮らしを支えようとする子供、この設定ならいくらでも涙を誘う感動作を作ることができたでしょうが、そうはしないところがケストナー“らしさ”な気がします。
この作品は章ごとに『立ち止まって考えたこと』というケストナーの大人の目で考察したことが挟まれています。子供心には「そんな風に言わなくても……」な内容ですが、点子ちゃんとアントンのすることもまた全部がいいことではないんだよ、じゃあどうしたらよかったのかな?と考えさせるような内容なので、子供たちの思考力を育てるにはとってもいいんじゃないかな、と思います。
貧富の差、男女の垣根を超えて、自立心旺盛な子供たちが友情を育む姿を描いたとても素晴らしい作品で、なによりこれが書かれたのがナチ統治下のドイツで、というのがまたすごいですよね。
大人が読んでも面白くて読み応えのある作品なので、ぜひ読んで見て!とおすすめしたい1冊です!


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