
山の上の文章教室⑤
前回、訪れた8月の真夏日とはうって変わり、一枚羽織ものがなければ肌寒いと感じる10月下旬の昼下がり。
前日まで旅行で奈良・京都に行っていたので、若干の疲れはあるものの教室にいる時に感じる「言葉の海に漂っているあの感覚」を味わえると思うと、足取りが少しだけ軽くなる。
京都の恵文社一乗寺店で購入した荒井裕樹 さんの『感情の海を泳ぎ、言葉と出会う』を読み始め、「いい文章とは?」「いい言葉とは?」と考えながら駅から教室までの道中を歩いていた。
他者から評価されたものが「いい文章」とは思わない。『感情の海を泳ぎ、言葉と出会う』に書かれていた「自分が生きていることを、自分自身に感じさせてくれる」もなんだか腑に落ちない。
この答えは一生かかっても導き出せないかもしれないが、たゆたうように文章を書き続けていれば、いつか近づける気もする。
そんなことを考えながら歩いているうちに「山の上の教室」に到着。
教室につくと参加者はすでに居間のテーブルを囲い、誰が喋るわけでもなく静かに開始を待つ。別に仲が悪いわけではない。帰り道など話すきっかけがあれば喋るが「せっかく同じ教室に通っているんだから仲良くなろうよ!」みたいなスタンスの人はいなく、皆自然体に過ごしている。
それが私にとっても心地よい。
「山の上の文章教室」は毎回お題にそって文章を書き、それを皆の前で読み上げ感想をもらう形式で進む。今回のテーマが「フリー」だったので、最近読んで印象に残った三浦綾子の『母』の内容から、主人公小林セキの息子で小説家の小林多喜二のことについて書いた。
小林多喜二は共産主義者であり、その思想が色濃く作品にも反映している。私自身、左翼ではないが多喜二の思いに感銘を受け「はたして資本主義の社会で、わたしたち幸せになれるのだろうか?」と言った思いを綴った。
たまたまその日が衆議院議員選挙の前日だったこともあり、参加者の方々からは今の政治や世の中に対して感じることを語ってもらえた。
島田さんからのフィードバックは、フランスの経済学者トマ・ピケティの著書『21世紀の資本』を引き合いに、現代の社会構造について言及したもの。
私は、さも分かってますみたい感じを出しながら島田さんの話に相槌を打っていたが、内心「やべぇ、なに言っているのか全然わからん・・・」とたじろいでいた。
教室が終わったあと『21世紀の資本』を読んでみようと調べたところ、700Pにもわたる超大作と知り、本で読むのを諦め映画で観ることにした。(いちお、ピケティ本人監修)
島田さんは文学を好んで読む印象が強かったので、経済の本の話しが出てきたのは正直意外であった。
夏葉社のドキュメンタリー映画が完成
授業に入る前、島田さんがおもむろにカラープリントされた紙を一人一人に配りだしたので「何だろう?」と内容をみたところ、夏葉社のドキュメンタリー映画の試写会の案内だった。
以前に少し告知しました、弊社のドキュメンタリー映画がついに完成しました。撮影期間は1年半で、編集、営業だけでなく、高知に帰省していたときもずっとカメラが回っておりました。監督は田野隆太郎さんです。11月30日に渋谷のユーロライブで完成披露上映を行います。もしよかったら遊びにきて下さい pic.twitter.com/oWs9v0sWwo
— 夏葉社 (@natsuhasha) October 31, 2024
Xで映画を撮っているようなことをポストしていたので何となくは知っていたが、いざ完成して鑑賞できるとなると、夏葉社のファンとしては大変嬉しく思う。
今後、映画館で上映されるかどうかはまだ未定のため、もしかしたらこの試写会でしかお目にかかれないかもしれない。(そうであっては欲しくないが・・・)
とにかく島田さんがどのような思いで本を作っているのか、夏葉社の軌跡をスクリーンで観られることが今から楽しみである。
続く