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長編小説「誰が為の世界で希う」

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魔法を使える者――魔術師のいる現代日本を舞台とした、ヒューマンファンタジー小説「誰が為の世界で希う」をまとめました。全27話です。
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2024年6月の記事一覧

誰が為の世界で希う-5

『柏木蓮人:今日って予定ある?』  そんなメッセージが届いたのは、五月の大型連休中のこと…

秋本そら
4か月前
1

誰が為の世界で希う-6

 長期連休、最終日。  自宅アパートでパソコンや数冊の本と向かい合っていた亮は、不意に、…

秋本そら
4か月前

誰が為の世界で希う-7

 長期連休明けの昼下がりは、雲一つない、文句のつけようのない晴れだった。 「ありがとうご…

秋本そら
4か月前
5

誰が為の世界で希う-8

「あれは……古夜さんの残滓だね」  言うが早いか、蓮人はわずかな『山吹色』に近づき、屈み…

秋本そら
4か月前
1

誰が為の世界で希う-9

「絶っ対に嫌だね!」  亮の声が、大学のとある教室内に響き渡る。 「なんで俺が主役なのさ?…

秋本そら
4か月前
3

誰が為の世界で希う-10

「……で、清水くんはそこから逃げてきたんだね」  大学附属図書館の、社会科学に関する資料…

秋本そら
4か月前
4

誰が為の世界で希う-11

 亮が笹原と大学附属図書館で会った、その数日後。  風が強く吹き渡る中を、亮は大学に向かって歩いていた。  このあと、大学の空き教室でドラマの台本の読み合わせがある。先日海弥に渡された台本に目を通していた亮だったが、そのうち風の強さに辟易したように台本を鞄にしまい込む。代わりに記憶の中の台本を思い浮かべて、なにかを考えるかのように視線を泳がせはじめた。 「『いっそのこと、忘れられたら楽だったのに』――か」  亮がふと呟いたのは、主人公の台詞。亮が、撮影の中で口にしなければなら

誰が為の世界で希う-12

 梅雨入り宣言のされた日。  蓮人は降りしきる雨の中、黒い傘をさして大学へと向かいながら…

秋本そら
3か月前
2

誰が為の世界で希う-13

 その頃、大学構内のとある空き教室で、海弥はドラマ撮影の準備をしていた。鉛筆でこつこつと…

秋本そら
3か月前
1

誰が為の世界で希う-14

 六月中旬。  大学附属図書館で基礎心理学に関する本を手に取っていた蓮人は、腕に抱えた本…

秋本そら
3か月前

誰が為の世界で希う-15

 六月は終わりかけているというのに、まだ梅雨は明けない。  じとじとと雨を降らせ続ける灰…

秋本そら
3か月前
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誰が為の世界で希う-16

 七月になって数日が経ったある日、蓮人はゼミの教室から外を眺めていた。  蓮人の所属する…

秋本そら
3か月前

誰が為の世界で希う-17

 人の波に紛れて、駆ける、駆ける。  頭が痛い。耳元でどくどくと音がする。喉元まで心臓が…

秋本そら
3か月前
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誰が為の世界で希う-18

 数日後、黄昏時も過ぎて暗くなった時間。  蓮人と巷一は、魔法の練習によく使っていた公園の、すぐ近くにある喫茶店で顔を合わせていた。夏場にもかかわらず長袖のパーカーを着ている蓮人はまだしも、半そでの服を着た巷一には随分と寒く感じられるほどに、冷房のよく効いた店内だったからか、二人ともホットの飲み物を注文し、手元に置いている。  飴色の照明が二人の髪を艶やかに照らす中、蓮人がコーヒーに口をつけて話を切り出す。 「すみません、急に呼び出してしまって」 「いや、別にそれは構わないよ