名は体を現すかも
〔解説〕
人や物の名前は実体の様子と関係があるのかないのか。
一つは、名前は見た目や性質などを拠り所として付けられることがあるので、名前は実体の様子を現すという考え。
もう一つは、名前と実体の様子は無関係、つまり、名前は実体の様子を現していないという考え。一例として、名前に使われた漢字の意味とはまったく関係のない人格や容貌をもつ人物などが該当する。
名前と実体に食い違いが生じる原因は、親の願望中心で名が付けられることにある。美人になってほしい、賢い人物に育ってほしい、善良な人間になってほしい、というような思いが込められる。しかしそうはならない。
このようなことから、従来の「名は体を現す」が見直され、解釈に幅をもたせる「名は体を現すかも」となった。「孫は子よりかわいいかな」同様、主張の弱い珍妙なことわざである。
〔さらに解説〕
実例をあげればわかりやすいが、人名では何かと厄介なので動植物を例にあげる。名が体を現すものの例として、凡筆堂の「能天気エッセイ『その名じゃあんまりだ』」(2023年1月13日 note投稿)から一部引用する。
発する臭いが由来のヘクソカズラ(屁糞葛)、カメムシ類の総称であるヘヒリムシ(放屁虫)、アリにとっては恐怖のアリジゴク(蟻地獄)、実の形が犬の陰嚢に似ているオオイヌノフグリ(大犬陰嚢)、鳴き声が寂しそうなのでナゲキバト(嘆き鳩)、姿が亀の手に似ている甲殻類のカメノテ(亀の手)、仲間の餌を横取りするトウゾクカモメ(盗賊鴎)、ゴミ呼ばわりさせられたゴミムシ(芥虫)、もっと悲惨なマグソタカ(馬糞鷹)。
偽物扱いされたニセナマコ(偽黒海鼠)、ハリエンジュ(針槐)という本名があるのがせめてもの救いであるニセアカシア(偽アカシア)。
まがい物では、植物のウメモドキ(梅擬)、チョウのアゲハモドキ(揚羽擬)、カミキリムシのアオカミキリモドキ(青天牛擬)ほか多数。
なんという気の毒さ。心中お察し申しあげます。