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私の短歌五〇首(3)
スーパーで老いた夫婦がカート押す遅い歩みも背のあたたかい
ヒョウ柄のバンドに換えた腕時計少しだけれど妻若返る
特別に意味はないけど何となく昔住んでた社宅を見に行く
文鳥が肩から下りて邪魔をするキーボードの上に糞もする
道ばたの鳩が何気に距離をとるこちらも横目で睨んで通る
道ばたに雀の子あり拾って帰るも手当叶わず庭に墓あり
文鳥に逆剥けむしられ跳ねのけるまた降りてきて逆剥けねらう
大閤の町割り楽し道修町なにわの「とめ」の祭りも終わる
万葉の面影見ゆる鞆の浦波おだやかに海人の釣り船
上代の男女が詠んだ恋の歌今の我らと何も変わらず
白居易に先んじ歌う雪月花日本のこころ家持の歌
しつこくて威張りくさってケチなやつお水女子にはモテない男
年老いて幾つになっても母は母如何に報いん三春の暉
「あの花の名は何だろう」「何でしょう」他愛ないけど二人の時間
街角の雑踏の中の待ち合わせやっと見つけて笑顔の交差
ひたむきに生きる彼女は幸薄い女であると言われたくない
それじゃまた、とは言いつつも心では終わりの予感最後の笑顔
霜が降りなおも咲こうと薔薇の花もっと早く休めばいいのに
どれほど激しく暴れても甘噛み忘れぬその犬の優しさよ
繋がれて人待ち顔の犬一匹不安げにただ一点を見る
振り返り振り返りつつ行く子犬ご主人さまをずっと気にして
ご署名の「藤三娘」に藤原の誇りと愛嬌あふる光明子
悲しくて聴く音楽は優しくて嬉しい時はより楽しくて
ちっぽけな善といえどもそれぞれが自分に課された義務だと思う
植物に何が大事と尋ねれば花ではなくて種であるらし
あの女がわずかに書いたメモにさえ情趣ほのかに詠雪の才
あと何度食べられるかと語りつつ二人で決めたおせちを予約
嫌がるな冬には冬のよさがある炬燵こたつに入り蜜柑が食える
命なき物にもこころあると思う共に過ごしたやさしい時間
オフィスの机の上にマスコット実は会社を愛すればこそ
テレビ見てあの食材を捜したら見事なまでに全部売り切れ
悲しくて辛い時にはともかくも布団に入り眠るに限る
幸せになろうとばかり言うけれど生きてる限り立派に生きろ
泣き疲れ座ったままで眠る子の頬の涙が乾いて光る
泣きじゃくる子の口に手をあてがってアワワとやればインディアンになる
たわいもない問いかけに「うん」と答えると「うん、て何よ」と聞いてくる
マスクして美人になれないあの人は顔が小さいマスクがでかい
ばらばらと花びらが散る山茶花は花ごと落ちる椿羨む
寒風に夏のベゴニア晒されて開いたままの花が固まる
花よりも実を見てくれとヤブコウジ冬の景色は一人舞台に
風邪をひき七日寝込んだクリスマス二度と食わないアイスのケーキ
絶対に妻より先に死にたいが今すぐというわけでもないが
夢に見たサンタの長靴うれしくも爪先なくて履くことできず
泰時が真心こめた式目は道理を守り六百年も
ケーキ買いドライアイスの量訊かれ帰りの時間の二倍を言う
追い風が強く吹いたら大惨事オールバックがみな前に来る
大好きな映画のセリフ ヴィヴィアンの ”Stay cool.” 「素敵でいてね」
寒いから部屋の中に入りなさい温まったら力が湧くよ
声もせず姿も見えず風だけが吹き抜けていく真冬の校舎
真っ白な来年の手帳うれしくてまずは会社の休日を記す