私の読書の先生
よく「本が本を産む」と言いますが、私の本棚で特に多産の一冊があります。
それの本とは、久世光彦 著「一九三四年冬―乱歩」!!
1993年に<集英社>から発刊され、後に<新潮文庫>と<創元推理文庫>から文庫版が出ていますが、2024年現在はいずれも絶版で、電子書籍のみのようです。
(名作なのに!)
久世光彦さんは、元TBSの鬼才の演出家。退職後も制作会社カノックスの代表として、数々の名作ドラマを手掛けてきた人物です。
代表作としてよく挙げられるのは「時間ですよ」シリーズや「寺内貫太郎一家」シリーズですが、向田邦子さんのエッセイや小説を原作・原案とした「新春ドラマスペシャル」や「終戦特別企画」も忘れてはいけません。
それから、乱歩物だと、「D坂の殺人事件」を原作とした「D坂殺人事件 名探偵明智小五郎誕生」という名作もあります。
なんでこんなにドラマの話で熱くなっているのかといいますと、私は子どもの頃から久世ドラマの大ファンでして、朝刊のテレビ欄にその演出作品を見つけると一日ゴキゲンという感じで、いまだにその熱が冷めていないという訳なんです。
私は、そのドラマのファンでありながら、久世さんが小説家である(あと、作詞家でもあられます、多才!)ということにあまり気を留めておらず(雑誌等のエッセイは読んでいたんですが)、本格的にその著作を読み始めたのは2006年に逝去されてからでした。
最初は、新作ドラマがもう観られない…という心の穴を埋める目的だったのが、実際に読んでみると、その美文、その博識、その独特な世界観にすっかりやられてしまい、ドラマと同様にどっぷりはまってしまい現在に至ります。
その最初の一冊となったのが、前述の「一九三四年冬―乱歩」です。
連載小説「悪霊」の筆が進まずスランプに陥った乱歩が失踪し、麻布の張ホテルに身を隠していたという実話を元に書かれた小説。
この小説がユニークなのは、乱歩の潜伏生活という筋の中に、架空の乱歩の小説「梔子姫」が登場するという所。
これは勿論、乱歩の作品ではなく、久世さんが乱歩の作風を真似て創作したものです。確かに久世さんの存在感は残っているものの、その話のあちこちに乱歩のエッセンスがフワッフワッと漂っている。
どちらの世界観も好きな私にとって、とても贅沢な読書体験でした。
それでは何故、この本がどんどん別の本を産んでいったのか?
それは、この小説の中に様々な古典ミステリのタイトルが登場するからです。
バーナビー・ロス(エラリー・クイーン)「Yの悲劇」
エドガー・アラン・ポー「アッシャー家の崩壊」
ガストン・ルルー「黄色い部屋の謎」
ミルン「赤い部屋の秘密」
横溝正史「真珠郎」
…などなど、これらは序盤のほんの一部。
※追記:書き出してみました↓
タイトルはなんとなく聞いたことがあるけれど、どんな内容なのかは全く知らない。でも、この「一九三四年冬―乱歩」を読んでいるうちにそれらの本にも興味が湧いてきて…。
気がつけば、関連図書が増殖していました。
(更に子、孫…と増える感じ)
実は「一九三四年冬―乱歩」に出合う前にも、「ソワレ」という演劇雑誌で久世さんのエッセイを読んだことがあって、それが渡辺温を知るきっかけになっています。
西條八十の「トミノの地獄」も知りました。
(↓ ココでなんやかんや書いています)
雑誌連載の時は「幻想小劇場」というタイトルでしたが、後に単行本にまとめられた時には、「黄昏かげろう座」<角川春樹事務所>と改題されています。
(これもまた絶版でショボン)
そんなこんなで、久世さんの著作から新たな小説や作家を知るということが多く、それを読んでみたくなって図書館に行ったり書店に行ったりネットで探したりと、本がどんどんどんどん増えていき…。
まるで、久世さんからこれを読みなさいと言われているような感じ。
いつしか、久世さんは私の読書の先生になっていました。
元々、大正から昭和初期の小説(主にミステリ)が好きだったこともあり、そんな私の趣味嗜好にピタッとはまった久世さんの著作は、長いこと私の教科書的存在です。
ご本人が幼少の頃(1935年生)より明治、大正、リアルタイムの昭和初期の本を沢山読まれているため、その知識量は半端なく、後のエッセイや小説の中でも色々と言及されています。
だから、久世さんの本を一冊読むと、そこからまた別の本がどーっと発生してくる。
全部追っていたらエライことになります。
ちなみに、久世さんは古い唱歌や歌謡曲等にも精通されていたので、その方面の勉強にもなっています。
(いまさらながらジュリーのファンになったりして)
「マイ・ラスト・ソング」シリーズ参照。
…話がそれましたが。
最後に、久世さん自身が書かれた本格ミステリ作品について。
「一九三四年冬―乱歩」が変格ミステリというか、ミステリ手引き書のような趣があったのに対して、「逃げ水半次無用帖」<文春文庫>は、本格的なミステリというか、捕物帖としておすすめの作品です。
これについて書いていたらまた長くなりそうなので、また別の頁に続きます。
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