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いのちを喰らう




アフリカ 


サバンナの草原




無数の生と死が、


無限に繰り返される


動物たちの楽園







アフリカ サバンナの草原






シマウマ




今、とあるシマウマが、ライオンに喰われている。


シマウマは、自分が喰われて行くのを、


顔にかかる血しぶき、裂ける肉、折れてゆく骨


その絶望の全てを、激痛と共に感じ、


やがて意識は薄れ、無くなる。


そして、シマウマの、”いのち”は消える・・・


シマウマは、いのちが消える前に、


美味しかった草の味・・・


仲の良かった、仲間の事・・・


ひょっとしたら、


好きだったメスの仲間だって、


いたかもしれない・・・


肉体も、意識も、


喰われてる時・・・


人間が知らないだけで、


喰われている動物だって、


人間みたいじゃないにしろ、


何かしら、好きだった物や思い出を、


薄れゆく意識の中で、思い出していると思う。





ライオン





今、ライオンは、


その強靭なアゴと牙で、


シマウマの肉を裂き、骨を砕いている


ついさっきまで、


シマウマの体を駆け巡っていた、


生命の色が、今は、


ライオンの口や顔を、


赤く染め上げている。



いのちを奪う事で、


自分が、また生かされている


ただ、”生命の理”(ことわり)に、


従っているだけなのだが・・・


いのちを喰らう側も、


ライオンにしたって、


人間が知らないだけで、


何か、考えているのかもしれない。


やっと、食事にありつけたと喜ぶ者。


また、シマウマかと落胆している者。


もしかすると、心の優しいライオンがいて、


生命の理に、本能で従わざる終えないが、


いのちを奪ってまで、生きる自分に、


悩みを抱えている者も、いるかもしれない。



人間が知らないだけで、


喰う側も、喰われる側も、色々と考えているのだ。






サバンナの水辺で、水を飲むガゼル





”バシャッン!”




今、水辺で喉の渇きを、


うるおしていた


子どものガゼルが、


母親の目の前で、


水辺にひそんでいた、


ワニに喰われた。




「ぼうやー!ぼうやー!」




「誰かー!誰かー!私の、


 

 かわいいぼうやを、助けてー!」




人間が知らないだけで、


こういった目の前で、我が子を失う


必死で泣き叫ぶ母の声が、サバンナでは日常だ。


ワニの強靭なアゴと、


無数の剣山にも似た、


上下に連なる、たくさんの牙に砕かれ、


ガゼルの子は、心の中で叫ぶ。


(お母さん、痛いよー!痛いよー!



 いつも、いつも、お母さんが、



 ボクに、水辺にいる時は、



 ワニさんがいるから、注意しなさい!って、



 数えきれないくらい、教えてくれていたのに、


 

 それなのにボクは・・・


 

 こうして、お母さんの目の前で・・


 

 ワニさんの、口の中に・・・


 

 あんなにも、お母さんを泣かせてしまって、



 痛いよー!お母さん、痛いよー!



 ごめんなさい、お母さん。 


 

 さようなら、お母さん。」




子どものガゼルは、


涙を流して、母親に詫びている・・


消えゆく意識の中で、


子どものガゼルは、ふと空を見上げる。



(ああ、いつも前しか見ていなかったから、



 こうして、お空を見上げる事なんか、



 あまりなかったけれど、



 サバンナのお空って、



 こんなにも青くて、


 
 どこまでも、どこまでも、


 
 続いているんだね・・・・



 ボクは、ワニさんのお腹に入ったら、



 もう、このどこまでも青くて、



 どこまでも続く、サバンナのお空を、



 見る事が、出来なくなっちゃうんだね。



 ボク、もっと、お母さんといたかったよ。



 ボク、もっと、草原を走り回りたかったよ。



 ボク・・・もっと・・・・・。)




こうして・・


子どものガゼルは、


生命の理に従って、


サバンナの循環を担う、役割を果たした・・・






サバンナのワニ





今、ワニは、数日ぶりの食事にありつけた。


”なんとかこれで、生きていける!”


生命の理に従って、


ワニの口中には、ガゼルの子がいる。




「誰かー!誰かー!私の、


 

 かわいいぼうやを、助けてー!」





”まただ・・・”



ワニは、何度も何度も・・・


ウンザリするほど、


こうした母親の絶叫を聞いている・・


己は、ただ生命の理に従って、


明日も生きる為に、


いのちを喰らわねばならぬ。


明日も生きる為に、


この牙とアゴで、


いのちを裂き、砕かねばならない。


でも、こうして母親が泣き叫ぶ声を聞くと、


いつも、やり切れない気持ちになるのは、


どうしてなんだ?何故、なんだ?


ワニは、いのちを喰らいながら、


言葉に出来ない、気持ちに襲われる。


ガゼルの子を、喰っている・・・


美味しい、美味しくてしかたない!


でも、どうしてなんだ?


目からあふれている、この涙は?


ワニは、いつも食事の度に泣いている。


あなたが、もし今度、


ワニの食事を、見る機会があったら、


よーく見て欲しい。


ワニの瞳を。


きっと、泣いているから。


ワニの悲しみを、


よーく見て欲しい・・・








ウサギを捕らえたヒョウ





今、サバンナの光景を一緒に見ている、


私と”あなた”の、目の前で、


ヒョウが、ウサギを捕らえた。


この光景を見たあなたは、


どう感じているだろうか?



”残酷だ。” ”かわいそう・・・。”



色々な事を、感じているのかもしれない。


あなたとは、感じ方が違うと思うが、


私は、今、こう思ってる。



”美しい”




ヒョウも、ウサギも、


生命の理に従って、


お互いに、命一杯輝いている。


ヒョウは、明日を生きる為に、


ウサギのいのちを、喰らっている。


ウサギは、今、ヒョウに捕まるまで、


命一杯、輝いて生きて来て、


こうして、サバンナが循環するのに、


大切な役割を、果たしたのだ。


残酷だとか、かわいそうだとかは、


生命の理から外れた世界に


あるものだと、私は思う。









ライオンにしても、ワニにしても、


あるいは、ヒョウにしても、


”一時(いっとき)の勝者”かもしれないが、


”永遠の勝者”ではない。


なぜなら、彼らにも平等に、


”死”が、訪れるからだ。


喰う立場であった彼らも、


病気や、老衰(ろうすい)、


もしくは、ある日来た、


流れ者に、戦いを挑まれた結果、


敗れて、群れを追放されてしまい、


さすらう内に、死が訪れるかもしれない。


いずれにせよ、彼らが喰らった、


無数の”いのち”と、同じように、


勝者であった彼らにも等しく、


喰らわれる立場に、


なる時が必ず来る。



そうなった時、


”彼ら”の出番となる。


<サバンナの掃除屋>と、


呼ばれる、彼らが、


生命の理に従って、


勝者を喰らう、役目を果たす。








ハゲタカ





ハイエナ




色々な作品で、彼らは、


「卑怯者」  「悪役」


として、描かれている事が多いが、


実は、彼らは、サバンナに欠かせない存在なのだ。



腐肉食動物(ふにくしょくどうぶつ)



主に”死んだ動物の肉”を
食べる彼らは、
こう呼ばれている。


さらに、生態系において、
重要な役割を担っている。


腐肉とは、字の通りで、
腐(くさ)った肉の事である。


これを聞いた、優しいあなたは、


「腐肉なんて、食べても大丈夫なのかしら?」


そう、彼らを心配してくれたのかもしれない。


でも、心配ご無用。


彼らには、腐肉を食べても大丈夫なように、


”3つの特別”が、体に備わっている。


1.強力な胃酸


  腐肉に含まれた細菌を殺菌して、

  消化をするために、

  ”強力な胃酸”を、特別に持っている。



2.免疫システム


  
  長い年月を経た、進化の中で、

  腐肉に含まれている、病原菌に対して、

  ”特別な抵抗力”を、獲得した。



3.特別な酵素


  
  腐肉に含まれる、タンパク質を分解する

  ”特別な酵素”を、多く持っている。



先ほど、自然界における、
重要な役割を担っている。


そう私は、言ったが、
こちらも、見て行く事にしよう。


「生態系の維持」


 死んだ動物の体を、
 分解する事で、

 栄養素を土壌に戻し、
 新たな”いのち”の誕生をうながす。


「病原菌の拡散防止」


死んだ動物の体を早く分解する事で、
病原菌が、周囲に広がるのを防いでいる。



彼らは、サバンナの循環にとって、


必要不可欠な存在なのだ。


今度、彼らを見かける事があったら、


どうか嫌わずに、本質を見て欲しい。







おや?


いつの間に、こんな時間に。


あなたを、サバンナに案内して、


一緒に旅をして来ましたが、


どうやら、夕暮れのようです。


私たち、人間といえども、


このサバンナでは、


特別扱いは、されません。


夜になると、今よりも危険です。


私たちには、爪も牙もありません。


生命の理に従がうと、


我々は、喰う側か、喰われる側か?


聡明(そうめい)な、あなたなら、


すぐお分かりになるはずだ。


今回は、このあたりにして、


お互いに、元いた世界に帰りましょうか。


また機会あらば、


サバンナを、ご案内しましょう。


では、気をつけてお帰りください。


さようなら。








サバンナの夕陽





サバンナの夕陽は赤い。



サバンナに沈む夕陽は、



まるで血のように燃え上がり、



その大地を、赤く染め上げている。





サバンナは、生命の理で、出来ている。




サバンナには、勝者も敗者もいない。




あるのは・・・・




”いのち”だけだ!







最後までお読み頂き、ありがとうございました!





素敵な画像に感謝!


写真AC様     pexels様





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坂本猫馬
懐かしいやら、マニアックな内容やらですが、 もし、よろしければですが、サポートして頂けたら 大変、嬉しく感激です! 頂いたサポートは、あなた様にまた、楽しんで頂ける 記事を書くことで、お礼をしたいと思います。 よろしくお願いします。