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名作探訪 その20 ルールの一部をプレイヤーが作り出すゲーム 『アルケミスト』

こんにちは、ボードゲームデザイナーの山田空太といいます。

今回は、ボードゲーム 名作探訪シリーズ その20をお届けします。

本日ご紹介するゲームは、カルロ・ロッシ作の『アルケミスト』。プレイヤーがゲームのルールの一部を設定するという、ちょっと尖った唯一無二のプレイ感のゲーム。

ボードゲーム 名作探訪 :  皆さまに是非とも遊んでほしいボードゲーム紹介のシリーズです。1990〜2015年くらいのファミリーストラテジーのゲームを中心として、100作を目指して書いております。

前回の記事はこちらからどうぞ⇩

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カルロ・ロッシの代表作には、『いかだ動物園』や『大勝負』があります。キッズゲームも得意で、最近では『ミステリアス フォレスト』という協力メモリーゲームも出していますね。

*2014年に発売されたアプリを使う『アルケミスト / Alchemists』とは別ゲームなのでご注意ください。今日ご紹介する『アルケミスト / Alchemist』は2007年発売のゲームです(絶版で今は手に入りにくいのですが…泣)。

アルケミスト / Alchemist

Designer: Carlo A. Rossi
Artist: Volkan Baga
Publishers: AMIGO, Mayfair Games
(2007)
2-4人
好み:AA
プレイ時間:30-50分

ゲームの概要

プレイヤーは錬金術師となって、魔女が使用しそうな材料を釜に入れて、ポーションを作ります。ポーションを完成させると、名誉点が得られます。いくつかの材料がなくなったとき、最も多くの名誉点を持っているプレイヤーの勝利です。

ポーションの材料には、灰(鳥の足), 青(キノコ), 緑(蛇毒), 橙(トロルの目), 黄(クモ)というように、5種類(5色)あり、それぞれ木製キューブになっています。

ゲームボードには、全部で10つの釜が書かれてあります。1つの釜には1つのポーションのレシピが割り当てられるので、最大で10のレシピが作られます。その釜を使って、プレイヤーは材料をポーションに加工していきます。

スクリーンショット 2021-03-02 12.53.53

ただし、ポーションのレシピは最初から決まっているわけではありません。ゲーム中に、プレイヤー自身がレシピをデザインするのです。ここが、このゲームの最大のポイントです。

作ったレシピは、他のプレイヤーがコピーして使用されることがあります。自分のレシピが使用されると、1つ材料をもらえます(ちょっと嬉しいですね)。しかし、自分自身が作ったレシピを再利用することはできません(考えてみればちょっと変ですが、、、)


さて、最初に各プレイヤーは、材料駒をランダムで12個持っており、衝立の中に隠しておきます。ゲーム中ずっと、どの材料を何個持っているかは秘密です。そして、自分の派閥(色)が秘密裏に割り当てられます。この派閥はゲーム終了時のボーナス点と関わってきます。

ゲームの進行は、下の3つの選択肢の中から1つを選ぶということを繰り返します。

手番でやること:
・ 新しいレシピをデザインする
・ すでにあるレシピをコピーする (材料を1つ持ち主に払う)
・ 場のストックから材料を1つとるか、袋から2つとる

このゲームのレシピというのは、1個から5個の材料を使って、名誉点と2種類の副産物(材料)に変換するというものです。

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例えば、上記の写真ですと、釜の中に蛇毒2個とトロルの目1個を入れることによって、上部に提示された、5の名誉点、さらに鳥の足1個とキノコ1個が得られます。名誉点には1点から10点まであり、これもレシピを作るプレイヤーが決定できます。

ゲームの終了条件は、全体のストックの材料が3種類以上なくなること。終了時に、自分の派閥(色)の駒が場において最も少なければ、ボーナス点を得られます。このボーナスは結構大きく、重要になります。

以上がゲームの流れになります。

このゲームの特徴は、何よりレシピを自由に作り出せること。ゲームルールの一部をプレイヤーが担当すると言いましょうか。ちょっと面白いですよね。

このゲームでは、自由さに、かなりの幅を持たせています。ゲームを壊しかねないような、極端なバランスのレシピを作ることができるのです。例えば、材料1つで、名誉点10(max)と他の材料2つがもらえるようなレシピを作っても問題ありません。

しかし、そのような少ないコストで多くの名誉点が得られるお得なレシピは、他のプレイヤーにどんどん使われて名誉点を稼がれてしまいます。つまり、極端なレシピを作ることは可能だけれど、他プレイヤーが得してしまうので、ゲームにはなかなか勝てないのですね。

とは言え、自分のレシピを全く使われなくてもなかなかゲームに勝てません。なぜなら、自分のレシピを使われると、材料を1つ払ってもらえるというメリットがあるからです。この材料1つのプラスは、何もしなくても資産が増えるということなので、積み重なると効いてきます。

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ということで、お得過ぎるレシピは他プレイヤーを利するし、損するレシピは全く使われない。つまり、ほどほどに他プレイヤーに使ってもらえて、俯瞰するとちょっとだけ自分が得になるような良い塩梅のレシピが、最高!そんなレシピを作ることが、このゲームの焦点になります。

とは言え、レシピの価値は相対的なものなので、良いレシピができたなあと思っていても、他プレイヤーがもっとお得なレシピを作ればそちらに人気が集まるわけで、、、。

そんな感じで、何とも捉えどころがなく、確実なものが何もないような中で進んでいくゲームなのです。

ゲームデザインの観点から

プレイヤーがゲームルールの一部を作り出せるという、メインのメカニクスはかなり挑戦的です。大抵、このようなゲームは仕上がりが残念なことが多いですが、『アルケミスト』ではその他の部分が丁寧に作られているため、きちんと成立しています。ゲームデザイナーの意図が、通っているゲームではないかと思います。

ルールは実質2ページと少なく、例外的なルールもありません。面白い、面白くないは遊び手の判断に委ねられますが、良くできたゲームであることに間違いないと思います。

ゲームのプレイ感は、暗闇の中を進んでいくような感覚です。この手が良い手かどうかよく分からないですし、いつの間にか自分の意図していない方向へ進んでいったりします。

そのような暗中模索の中、「自分の派閥(色)の駒が場において少なければ、ボーナス点を得られる」という1つのルールがよく効いていて、ゲームを引き締めています。判断材料が少ない中、プレイヤーたちはその微かな光を頼りに意思決定をしていくのです。自分の派閥(色)のキューブをゲームから取り除かれていくように、他プレイヤーを誘導していきます。

ルールが良いだけではなく、テーマもはまっていますね。錬金術師の魔法の釜というと、ありえない組み合わせでも許容されそうです。アートワークも良い感じです。

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*Board Game Geek より転載
https://boardgamegeek.com/boardgame/27385/alchemist/images

ぼくは2人プレイで遊んだことはないですが、2人でも十分に面白いようです。プレイヤー間のインタラクションが強いゲームで、2人プレイでもOKというのは希少かもしれません。

まとめ

『アルケミスト』は、プレイヤーがゲームルールの一部を作り出すという、メタなゲームです。

実際には、プレイヤーは錬金術師のポーションのレシピ(変換条件)を作り出します。ここで、レシピをめちゃくちゃな設定にすることもできるんです。そうすると、ゲームが破綻しそうですが、意外とそうなりません。このゲームでは自分の作ったレシピは「自分ではもう一度使えない」という制約があるため、お得なレシピを作ると他プレイヤーに何度も使用されてしまい、結局自分は損をしてしまうからです。

そのようにして、自然とプレイヤー間でバランスをとるように、仕向けられているのです。ゲーム全体を直接的にではなく遠回りにコントロールしていくようなゲームなのではないかと思っています。

遊んでみる価値は十分にあると思います。

今日のnoteは以上です。

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