名作探訪 その6 船と鋼鉄の 『ル・アーブル』
ボードゲームデザイナーの山田空太です。
ボードゲーム 名作探訪 とは: 皆さまに是非とも遊んでほしいボードゲーム紹介のシリーズです。ドイツゲーム隆盛期である1990〜2015年くらいのファミリーストラテジーのゲームを中心として、100作を目指して少しずつ書いております。
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はじめに
本日のゲームは、港ゲーム『ル・アーブル』。
フランスの港湾都市ル・アーブルを舞台として、港に届く様々な作物や鉱物を、街やプレイヤー所有の施設で加工して交易しながら、種々の建物を建てたり船を作ったりして資産を積み上げるゲームです。
ウヴェ・ローゼンベルクによる、いわゆる収穫三部作のうちの一つで、『アグリコラ』に続く2008年の作品。
ローゼンベルクはその後も、『カヴェルナ』『アルルの丘』『オーディンの祝祭』など、ワーカープレイスメントとリソースマネジメントを組み合わせた重量級の作品を発表しています。初期の2作『アグリコラ』とこの『ル・アーブル』の成功がそのはじまりにあります。
ル・アーブル Le Havre
Designer: Uwe Rosenberg
Artist: Klemens Franz
Publisher: Lookout Games
(2008)
for 1-5 players
好み:AA
時間:120-180分
2人でも:面白いが、できれば3人以上がオススメ
ざっくり言うと、木材、粘土、鉄、魚、牛などの資源をなるべくタイミングよく入手し、資源をアップグレードして、建物や船やお金に変えていくゲーム。
手番のアクション
手段は多いのですが、手番の行動は「資源を取る」か「建物を使用するか」の2通りと明快です。
資源は共通のプールにチョロチョロと溜まっていくため、ほどよく増えたところで一気にとりたい。とは言え、皆の考えていることなので、そううまくはいきません。
建物を建築すると、次のターンからその建物を使用することが可能となります。各建物には固有の効果があり、その多くは変換=加工アクションです。例えば、燻製所では魚から燻製を、パン屋では麦からパンを製造することができ、それぞれ価値が上がります。
他プレイヤーの建物も、使用料を払うことで使うことができます。ただし、1つの建物を同時に使用できるのは1人まで。使おうとしていた建物が直前に使われると、計画が狂うのです。また、使用料はボーナスとして大きく、使用頻度の高い建物をいかに所有しているかは大切です。
ラウンドの最後に運営費として食料を支払います。このゲーム、食料支払いは大変シビア。
ラウンドを経るにつれて、支払うべき食料はどんどん高くなります。そのため、ゲーム中ずっと食料難に悩まされることになります。しかし、食料に気をとられていると、他の重要な資源(木材、鉄、粘土など)が疎かになり、資産になりません。
ゲームの鍵
そして、ゲームの鍵となる「船」。
船を建造すると、毎ラウンドの食料負担が軽減されます。船は他の資源と違い消費されないので、早いラウンドで船を建造するとゲームを楽に進めることができます(とは言え、船を作るのは簡単ではない・・)。さらに、ゲーム中最重要アクションである船での出荷(海運会社)には、船の所有が必須であり、最終ラウンドまでに3、4隻の船は所有しておきたいところです。
基本的に、欲しいモノはすぐに手に入りません。加工、変換の工程にいくつかのアクションが必要なため、数ターンをかけないと欲しいモノが手に入らないのです。この”時間差”が、『ル・アーブル 』の厄介であり、面白いところです。
例えば、「鉄製の船」を建造するために必要な資源は、鉄が4つとエネルギー3ポイント。船を建造するための波止場を使用するためには、さらに2食料が必要。自分の波止場ならタダで使用できますが、自分で波止場を建設しようとすると、木材2 粘土2 鉄2のコストがかかります。さらに、鉄製の船を建造するためには、最初に利用するプレイヤーが波止場にレンガを1つはめこんで改築しなくてはいけません。レンガを手に入れるのも一苦労です。粘土をレンガ工場にて加工するか、工業品店などの建物を使用して獲得する必要があります。
1ターンにできるアクションは1つ。つまり、1つの目標を達成するための準備に、アクション数も資源も費やさないといけないのです。その間にも食料の支払いがあり、忙しい。
勝つためには、常に数ターン先を見据えて選択をしないといけないので、緻密な計画が求められます。木材1つ、1フランの有る無しで、やりたいアクションがあと一歩でできないこともあります。
場の建物、手持ちの資源、将来手に入るであろう資源、他プレイヤーの行動の予測、それらの条件を全て勘案して行動を選択をしないといけないのです。建物の効果と建築に必要な資源、使用頻度の高い建物、資源のグレードアップの方法を少なくとも覚えておかないといけません。
初回プレイでは難しいですが、1度流れを覚えると見通しは意外といいゲームだなと思います。
まとめ
ウヴェ・ローゼンベルグの重量級ゲームの中で、個人的には一番好み。『アグリコラ』も好きですが、ゲームデザインとしては『ル・アーブル』に魅力を感じます。その中でも、下の3つが特に良いところかなと思います。
①1手番のアクションが、簡潔で整理されている
②ゲーム中、ずっと資源がチョロチョロ供給されていること。全プレイヤーが所有できる全体資源が増え続けているということ。これが効いている。
③「他人の建物を使える」という要素を重量級ゲームに組み入れることは、ゲームデザインとして難しそうだが、きちんとクリアできている。
120分の重量級ゲームは、昨今ソロプレイ化の流れがありますが、『ル・アーブル』はそのちょっと手前の分水嶺の時期に出来たゲーム。ローゼンベルクの優れた編集力が発揮されているのではないかと思います。
さて、名作探訪シリーズ、いかがでしたでしょうか?もし面白かったら、是非noteとtwitterのフォローをお願いします。
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