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ゲームが教えてくれた【梅の湯@田端駅】

 僕には子どもがいないのだが、もしも将来的に子どもができたとしたら、なるべくいろんな経験をさせたいと思っている。これは、僕が幼い頃に大人に言われた「やっちゃダメなこと」が、全て正しいわけではなかったことに自分が大人になってから気づいたためだ。
 その最たる例が「テレビゲーム」である。昔、ゲームをやりすぎると視力が落ちるだとか教育的に悪影響だとか言われたこともあったが、僕は幼い頃にゲームを長時間やっていてよかったと思う。
 ある自治体ではゲームを制限するような動きもあるようだけれど、僕は小学生から高校生までの間、多い時は朝も夜も関係なく、1日に4時間も5時間もゲームをやっていた。アクションからRPGまでジャンルは様々だったが、熱中していたゲームのトータルプレイ時間を見ると「100時間」なんて表示されているソフトもいくつもあった。でも、小学生の時にはマラソン大会で1位だったし、中学生の時には学年で生徒が250人ほどいた中で塾に通わずとも上位10%に入るくらいには成績が良かったし、20代半ばくらいまでは視力が両目とも2.0あった。ちなみに30歳を超えた現在も余裕で裸眼で生活できている。
「ゲームをやると視力が下がる、頭が悪くなる、それより勉強をしなさい」なんて意見もあるけれど、僕は視力が下がらなかったばかりか、ある程度は勉強も努力していたため、結果として偏差値60以上の大学を出て上場企業にも就職できたのだった。もちろん罪を犯したこともないし、社会的なマナーはなるべく守るような人間でもある。ちなみに、嫌いなことはポイ捨てと歩きタバコだ。

 あくまで個人的な実体験に基づいた話というだけなのだが、視力が落ちる原因も学力が悪くなる原因も素行が悪くなる原因も、ゲームは直接関わらないのではないかと思う。それらとゲームとの因果関係はほとんどなく、むしろ僕にとってはゲームから学んだことやゲームで身についたこと、ゲームを通じて仲が深まった友人の存在など、プラスの要素ばかりが思いつく。
 たとえば、ゲームで出てくる敵キャラクターは「どうにかすれば絶対に倒すことができる」ような設定になっている。何度やっても倒せない敵がいるということは、すなわち自分の経験値が足りていないだけなのだ。
 僕は、その敵を倒す成功体験を通して忍耐力が身についたように思う。強敵が現れた時に「この敵には勝てないな……」と諦めるのではなく、「どうすれば倒せるだろうか」と、倒すことを前提に次の行動に移っているのである。キャラクター自身の攻撃力や防御力などのステータスを高めて出直すこともあれば、強い武器や防具を手に入れてから再戦することも、そして戦略や戦術を変えて挑むこともある。この試行錯誤の繰り返しによって徐々にコツが掴めてきて、目標を達成できるわけだ。
 ゲームによって空間把握能力も身についた。これは生活に直接的に役立つし、資料作成など仕事においても僕を助けてくれている。たとえば、僕は地図を見るのが得意で、平面のマップを見れば、自分の現在地をもとに目的地までどの方向にどのように進めばいいのか、頭の中でだいたいイメージすることができる。一度通った道も三次元的に捉えて記憶してしまうので、道に迷った経験もほとんどない。これは、ゲームの中でマップを見ながらキャラクターの進行方向を即座に判断することに慣れたためだろう。

 ゲームにどれだけ時間とお金を費やそうが、そこから何を感じてどのような選択をする人間に育つかは、結局のところ本人の価値観や性格次第、つまり自分を取り囲む環境によって決まっていくのではないか。これが僕の持論であり、だからこそ、自分の子どもには多くの価値観や文化に触れる経験をさせて、選択の幅を広げ、そして自分の頭で考えられるような人間に育って欲しいのである。ある銭湯で見た家族のように。

 2022年9月23日(金)、僕は東京都荒川区にいた。向かった先は銭湯だ。

ーー想像より大きいな。

 そう、今回訪れたのは「梅の湯」だ。中に入ると、1階には下駄箱が、2階にはフロントと待合所を兼ねた休憩スペース、そして浴場があった。階段だけでなくエレベーターも設置されているので、足腰が弱い方にとっても利用しやすい施設となっている。
 2016年9月にリニューアルされたそうで、外観も内装も真新しさを感じる。雰囲気や規模感で言えば銭湯というよりもスーパー銭湯に近い。また、さまざまな温浴施設関係のステッカーも貼られており、多くのお客さんが訪れている様子が伝わってきた。

 銭湯なので、もちろん入浴料は東京都浴場組合が定めた金額なのだけれど、サウナは無料らしい。脱衣所に進み、服を脱いでロッカーに荷物を預けた僕は、浴場へと足を踏み入れた。

ーーほぉ、いい雰囲気じゃないですか。

(東京銭湯: https://www.1010.or.jp/mag-tokyosento-umenoyu/ )

 白を基調とした清潔感のある、洗練されたシンプルなデザインだった。お風呂はジェットバスや炭酸泉など複数の種類があり、やはり「銭湯以上、スーパー銭湯未満」といった印象である。なにより僕の目に留まったのは、その客層だ。明らかに今まで伺ったどの銭湯よりも家族連れの親子が多いのである。
 そこそこ混んでいたが、洗い場で身を清めた僕は、軽くお風呂で体を温めてから、いよいよサウナ室へと向かった。サウナマット用のビート板を手に取り、ゆっくりと扉を開ける。

「落ち着く広さだな」

 とてもコンパクトな設計で、物理的には4人が座れるところに、3人までの入室制限がかかっていた。ベンチの下にストーブが格納されているボナサウナで、温度は90℃。ある程度の湿度が維持されており、体感としては十分な熱さである。
 空いているスペースに腰をかけた僕は、そこで静かに蒸され始めた。それから数分が経過すると、全身からは大量の汗が流れ出し、呼吸は荒れ、心臓の鼓動が激しくなっていった。

ーーそろそろ出るか。

 立ち上がり、サウナ室を出た僕は、頭から掛け湯をして水風呂に肩まで浸かった。

ーーおお、これは素晴らしい。

 水温は24℃、バイブラは無し。まさに僕好みのセッティングである。羽衣を纏い、永遠にその場にいられる極上の心地よさ。五感が研ぎ澄まされ、意識は内側に向いていく。

ーー行くか。

(東京銭湯: https://www.1010.or.jp/mag-tokyosento-umenoyu/ )

 水風呂から立ち上がった僕が向かったのは露天スペースだ。僕が欲しい全てが揃っている銭湯、それが梅の湯なのである。他のお客さんの邪魔にならないところに腰をかけ、全身を脱力させて大きく深呼吸をすると、僕が次に意識を取り戻したのは、十数分間が経過した時だった。あまりの気持ちよさに、いつしか眠ってしまっていたのだ。

ーーなんだ、この銭湯。最高かよ。

 心の中でつぶやいた。そして周りを見回すと、父親と一緒に銭湯文化に触れる子ども達の楽しそうな様子が見て取れたのだった。

(written by ナオト:@bocci_naoto)

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