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【祝・最終巻発売!】達人伝を追いかけて生きた10年間 その①
※この記事は作品のネタバレを含みます。
※当記事ではこちらを参考にして画像等の引用を行っております。
10年にわたり「漫画アクション」にて連載されていた王欣太先生による
歴史漫画「達人伝~9万里を風に乗り~」の最終巻が8月28日に発売され
ます。
自分の人生において(良くも悪くも)最も色彩の強かった時代を、私は
この達人伝を追いかけて生きてきました。
そのためこの作品に対する思いは並々ならぬものがあるというか、他者には理解しづらいであろう熱量をもっています
そんな思いを「作品内の出来事」「自分の現実での出来事」に分けて書き
連ねていこうと思います。
お気に入り台詞コーナーもあるよ!
自分語りが多分に含まれており、純粋な作品紹介の記事ではないのですが
それでもお付き合いただけたら大変嬉しく思います。
1巻~9巻(2013~2015)
作品の出来事
物語の舞台は戦国七雄と呼ばれる七つの国が、中華の覇権を求め戦争を繰り返していた春秋戦国時代。
「生きる達人」荘子の孫である荘丹(そうたん)は、親友と祖国を
虎狼の国・秦と手を結んだ斉国の朱涯(しゅがい)将軍によって滅ぼされてしまいます。
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荘丹(荘子の孫。本作の主人公。)
秦と手を結んだとはいえ、虎狼の国の支配する天下を憂慮する朱涯。
そんな彼は、荘子ゆずりの奇想と奔放さを持つ荘丹に希望を見出し
「9年以内に達人を結集し、秦にあらがう力を束ねて戻ってこい」と言い放ちます。
朱涯将軍の激励を受け、荘丹の9万里を駆け巡る旅が始まったのです。
荘丹は、広大な中国大陸を旅する中で様々な人物と出会います。
莫逆の友にして、終生をともにすることとなる無名(うーみん)と
包丁(ほうてい)。
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無名(周王室の”元”王族。周王室に見切りをつけて流浪中。)
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包丁(伝説の料理人の甥。修業中だが料理の腕は抜群。)
荘丹・無名・包丁の3人は、秦の冷酷な侵略にあらがうべく
「熱く鮮やかな不変の覚悟」という思いを込めて「丹の三侠」と名乗り
ます。(”丹”とは、赤みのある色の名前でもあります。)
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丹の三侠(上から包丁、荘丹、無名)
その他には、一筋縄ではいかぬ雰囲気を纏う呂不韋(りょふい)。
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呂不韋(新進気鋭の商人。)
さらに、丹の三侠は秦の暴虐に憤る達人たちに巡り合います。
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盗跖(とうせき)(天下の大泥棒にして義賊。)
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信陵君(しんりょうくん)(一国に匹敵する影響力を持つ。戦国四君の
一人。)
天下の大泥棒 や 戦国四君といった超大物たちと次々に知り合う荘丹たちですが、虎狼の国・秦も負けず劣らずの大物ぞろい。
その中でも特に名を馳せるのが殺戮将軍・白起(はくき)です。
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白起(秦の将軍。)
秦が他国から虎狼の国と呼ばれるほど恐れられているのは、何といっても
この白起の存在によるもの。
何十という城を奪い、何十万という兵を殺戮する白起は明らかに別次元の
強さを持ち、各国はまるで太刀打ちできずにいました。
白起を筆頭に他国へ侵攻を進める虎狼の国。
その牙は、中華を生きる人間にとって心の故郷ともいえる古都・洛陽にまで届きます。
この洛陽侵攻の目的は「故郷を想う甘さなど、秦の支配する世には不要だ」ということを天下人民に知らしめるための見せしめだったのです。
そして洛陽を攻める軍を指揮するのは、秦軍において白起に次ぐとされる
王齕(おうこつ)とその軍師范束(はんそく)でした。
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王齕(秦の将軍。)
窮地の洛陽を救うため、各国から救援が送り出されるのですが、なんとその救援軍を率いることになったのは丹の三侠!
まるで導かれるように、三人は戦いの最前線に赴くこととなりました。
丹の三侠の初陣としてはあまりにも強大な敵で、あまりにも大きな責任を
背負って戦国最強の秦軍に向かうことになるのですが、この大一番で荘丹の祖父から引き継がれし「生きる極意」の技がさく裂します。
戦を生き物と捉え自由自在に軍を動かし、武人では思いもよらぬ発想と感性をもってして、荘丹たちは戦場の主導権を握ることに成功します。
そして、丹の三侠の活躍や信良君の腹心である曹寛(そうかん)の助けも
あって、洛陽は何とか危機を脱することとなりました。
デビュー戦で大勝利を収めた彼らは、見事天下に秦に抗う勢力の存在を
示したのです。
しかし、時を同じくして戦国七雄が一国の魏に白起が迫っていました。
白起の狙いは魏の華陽(かよう)城。
名だたる将軍たちが集まっていたこの城を、大胆不敵にも少数で攻め入り
何と、そのまま落城させてしまったのです。
城の外に布陣していた軍も壊滅させた白起でしたが、その時に敵兵に与えた
死に方は、激流の河へ追い詰めてからの「溺死」という惨たらしいもの。
これも秦による恫喝の一つで、あえて残忍な殺し方を選ぶことで、各国の
秦に対抗する気を萎えさせようという狙いです。
洛陽の防衛においては大活躍を見せた丹の三侠でしたが、白起の恐るべき
戦果の前にはそれも霞んでしまい、まだまだ秦に抗うには力不足であると思い知らされる荘丹たちでした。
しかも、秦は新たな宰相に魏国からの亡命者の范雎(はんしょ)を登用し
その辛辣さとどう猛さをさらに増します。
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范雎(”元”魏国の人間で、”現”秦国の宰相。)
秦が天下の中心に君臨する中、商人・呂不韋は趙国の邯鄲(かんたん)に
いました。
そこで呂不韋は雛朱(すうしゅ)という少女に出会うのですが、この
出会いが中華の運命を大きく変えることになります。
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雛朱(故郷を秦に滅ぼされた幼い舞子。)
呂不韋がこの春秋戦国時代にどのような影響を与えるのか?
他の国は白起を止めることができるのか?
荘丹たちが新たに出会うのはどんな達人たちか?
それは次の10巻~21巻で!
現実の出来事
私が達人伝に出会ったきっかけは、本屋さんの新刊マンガコーナーで
「蒼天航路の作者が描く新たな中国歴史マンガ!」みたいなポップを
見たことです。
その時はすでに2巻まで刊行されていたのですが、蒼天航路が大好きだった私は迷わず1、2巻をレジに持っていきました。
そして無事、蒼天航路以上にドはまりしたというわけですね。
当時私は高校生で、バイト先では怒りっぽいお客さんに怯え、予備校では
高圧的な講師に怯えと、精神的に余裕と安定さを欠く生活をしていました。
それでも「この競争社会で勝ち組に入りたい、負け組になりたくない」
という傲慢な上昇意欲でいっぱいだった私は、有名大学に入るための学費と学力を得るため、自らの心を殺す生活を2~3年続けます。
しかしキャパシティが少ないくせに無理をしたのが祟り、高校在学中に
うつ病を患いました。それが達人伝の5巻が発売された頃の話です。
精神科を受診した帰りに、本屋さんで王齕が描かれた5巻を買って帰った
のを今でもはっきりと覚えています。(表紙の王齕が超かっこいいんだ...)
もともと負けず嫌いでプライドの高い私にとって
「何もせずにただ休むことを求められるうつ病療養」というのは、我慢ならないものがありました。
同年代の若者たちが着々と進学や就職を決める中で、自分だけが世間から
隔離されたような感覚を覚え「早く競争に復帰しないと」「自分の人生は
もう終わりだ」と焦りに焦っていました。
そんな私の療養生活を助けてくれたのは、達人伝を通して知った「老荘
思想」です。
主人公の荘丹は荘子の孫という設定ですから、荘子の説話やそれを基にしたエピソードがたくさん出てきます。
特に
「木谿の極意」
・闘鶏を育てる達人は、鶏から気負いや敵愾心を除き、まるで木彫りの
ようになるまで育てる。
そうすることで他の闘鶏は木彫りの鶏には見向きもしなくなり、結果として戦わずに最後まで立っていられるという「争わないことで勝つ」ことを教える説話。
「無用の用」
・実を付けたり材木として適している、いわば人間にとって有用な木は実をもがれ、身体を切り刻まれて与えられた一生を全うできずに短命で終わってしまう。
それに対して実もつけず、材木にもならない無用の木は人間にとって無用
だからこそ、危害に脅かされることなくその命を全うできる。
「有用無用という尺度では生きることの価値を決めつけることはできない」ということを教える説話。
この二つはかなり染みましたね。
「競争に勝たなければいけない」「役に立たなければ生きる価値はない」
という圧力に押しつぶされていた私を本当に救ってくれました。
「頑張りすぎな状態」から「頑張らない状態」に急変するのがうつ療養の
初期段階です。
この変化が耐え難く、悶え苦しむ人も少なくないと聞きます。
そんな中、私がうつ病療養の初期段階でこの作品を既に知っていたことは
人生の中でも指折りの幸運でした。
達人伝を愛読書として常にそばに置いていたおかげで「できないことは悪いことじゃない、無用の用だ」と、自分に言い聞かせて徐々に焦りを静められました。
とはいえ、このころはまだうつ病との付き合いは始まったばかりで、仕事も進路も決まっていない状態。
まるで暗いトンネルの中で座り込んでいるような心持ちでした。
達人伝に救われた私の人生語りも、また次に続きます。
お気に入りの台詞
天地9万里を自在に遊ぶ心
決して虎狼の餌食にはならないものだ (荘丹)
人に神髄を味わわせること そして人の心髄と交わること
つまり食と侠 このふたつが俺の天命の両輪だ (包丁)
白起 これは王という存在そのものの全否定か?
地上からすべての王を消し去ってやるという意思表示か!? (春申君)
戦なき世を求めるがあまり 虎狼の国の牛耳る甘さの許されん世を招いてはならんぞい (信陵君)
若い時分は おのれの獣に手を焼いた
しかし近ごろは 老いと秦の法というやつが 適度に俺を御して実に
心地よい (王齕)
人も樹も同じで 価値なんてもんは通り一遍に決められるもんじゃねぇんだな (包丁)
以降 秦に抗う者は生きることを許されない 一切の容赦はない
世界はそれを知る (白起)
侠骨たちが なんとかわが命をつないでくれる だがそれでも 荘丹よ
おまえの大法螺に つきあいた...かった...ぞ (朱涯)
公にあるものが法を軽んじ 法にもとづく刑を狼藉とみなせば
そこから公は病み国は腐る (趙奢)