詩を感じる | 私が最も好きなランボーの詩篇「居酒屋みどりで」
好きで何度も読み返す詩は何かと考えてみると、アルチュール・ランボーの数ある詩のひとつ「居酒屋みどりで」がそれに最も相応しいであろう。
パンが焼き上がるまでの間や、インスタントラーメンを待っている間に読めてしまう僅か十数行の詩篇は、週末に掛けて少し疲れた心をその脱力的な言葉でほんの少し労ってもらえる気分になる。
慌ただしかったつい先頃までを忘れ、半ばぼーっとした面持ちで手足を伸ばし、何となくお店の壁紙を見つめ、美しいウェイトレスさんに見惚れあらぬ想像を起こし、そして金色に立ち昇る大ジョッキのビールの泡に嘘のような安寧を感じる。
自然と生き急いでいた心をほだすように夕日に映える、小さな泡の煌めきよ。
この詩篇の主役も明日は休みかしれないし、また過酷な仕事かもしれない。
いずれにしても、またやって来るであろう現実を考えればこそ、この詩の言葉一つ一つが映えてくる。
どちらかといえば男性視点の詩篇ではあるが、殊に誰が読んでも違和感無く、読んでいる少しの間だけでも、詩人ランボーが読者の肩の荷を少し下ろしてくれることもあるかもしれない。
そしてきっと、堀口大學氏の訳文も絶妙であることは間違いないであろう。
「居酒屋みどりで」アルチュール・ランボー