読書記録 | シュティフターの「水晶」に見る自然と人間生活の調和
たとえば「人間喜劇」というものがあるとしたら、先程再読を終えたシュティフターの「水晶」は、壮大な「人間讃歌」というものに位置するのではないかと思う。
シュティフターの創り出す小説の世界は、余りあるほどの自然描写で私たち読者を誘導し、その中の一部分として自然と共存し、世代を超えまた次の世代へと受け継ぐ厳かで普遍的な人の生き方と生きることの歓びを表した、光差すようなものというべきであろうか。
いわば小説でありながら、NHKのナレーションだけで進行するドキュメンタリー番組を観ているような静謐な趣がある。
その作品の一つ「水晶」を読んでいると、途中から雪山で遭難した幼い兄妹の行く末を見守るという展開になってゆくのであるが、子どもであろうと容赦なく厳しさを叩きつける自然に畏怖する一方で、幻想的な氷と雪の創造物と、その中に囲まれながらも生き抜こうとする兄妹の飽くなき生命力の対比に、途轍もなく話のスケールの大きさを感じる。
作中の言葉一つ一つ、人物像の一つ一つが、後に起こる事柄の一つ一つに緻密に繋がり、言葉が大切にされているというものも珍しいであろう。
もう一ついい添えておくと、この「水晶」における表の主役は幼いきょうだいを含めた人間の営みと歴史であるが、真の主役と思うのが人々を分け隔てなく育み、時には氷山のように厳しい一面のある「自然」なのではないかと思っている。
どちらの面があるにしろ、「自然」の恩恵を受けながら、その自然の特徴にあわせ穏やかで慎ましく日々の生活を送る本来人間のあるべき姿をシュティフターの小説作品に見るのである。
シュティフターは文で画を見せる事ができる稀有な作家である。
もう一つだけいい添えておくと、シュティフターと私は偶然にも誕生日が同じである。