日本企業の社長の夢
今週から新年度を迎える会社も多いと思います。新年度に際して、先日、日経新聞で「社長、夢は何ですか?」という記事を読み「とてもいいなぁ」と思いました。まるで入社式で新人に語るようでした。「夢は成長の原動力だ。社会を変え、世界市場を席巻し、常識に挑む。日本企業の社長の夢からは覚悟が透ける。停滞の30年で蓄えた人材や資金、技術を武器に世界で再び勝負する。(日経新聞4月1日)」。数えてみると117人の社長が登場しておられました。時間をかけて、すべてじっくり読みました。感じるところも大いにありました。どの夢も、それらは経営者個々人の想いであり、現状を変えていきたいという情熱でした。
僕の言葉では「不」と言いますが、どの夢も現状に対する「不」を解決していきたい(それが社会の不であれ会社の不であれ)という問題意識から出たものです。不と、それを解決したいのだという想いを社会や社内と共有し、感化されるひとが現れて、初めて夢は実現していきます。だから夢はクルマで言うところの燃料であり、経営者は目的地に向かう運転手です。そこに社会や従業員という相乗りの人たちが集まって、クルマは目的地(こちらも夢)に向かう。夢は燃料と目的地の二役を果たすようです。
これに関連して「夢を語り始めた経営者」という記事も日経新聞に出ていました。この中で由紀ホールディングスの大坪正人社長の話が印象的でした。「2006年、祖父が創業したネジ製造の中小企業に31歳で入った。倒産寸前だった。自分に給料は出ない。アルバイトで日銭を稼いだ。生き残るにはネジで培った金属加工の技術を高めるしかない。航空機のエンジン用に特殊合金製のボルトを売り込み、ようやく窮地を脱した。幼いときから「技術」に憧れた。「技術は世界を変える」。20代から頭の片隅にあったのがエネルギー問題だ。国際紛争の7割は石油など資源の利権争いに起因するとされる。「エネルギー問題の解決こそ世界を変える」。出会いがあった。22年、ノーベル賞を受賞した中村修二氏を知人から紹介された。核融合のスタートアップ企業を立ち上げることを決め、連携先を探していた。夢の発電技術である核融合は海水から燃料をつくることができる。理論上は燃料1グラムから石油8トン分のエネルギーを得られる。課題の一つが燃料を1秒間に10回、秒速30万キロメートルで進む光にあてる技術だ。航空や宇宙で培った精密加工の技術を応用すれば可能性はある。(日経新聞4月1日)」。もしネジ屋としてネジのことばかり考えていたら、こうはならなかったでしょう。しかしエネルギー問題という不があり、やがて中村修二氏と出会う。何かと何かが結びついた瞬間だと思います。そして「ネジからズーム・アウトして見る」ことが現実的になったのではないか。
僕たちの会社も夢があります。「わからない時代にその会社(支援先企業)らしい答えを見つける」です。実はこれも支援先企業の取締役から示唆されたものです。これを聞いた時は「そうそう、そうなんですよ」と、目からうろこが落ちるように、何かと何かが結びついた。そして社内に持ち帰り我が社の取締役とも話をして「これしかないね」となりました。このような夢を持つことで、確かに日々の張り合いも違いますし、案件を粛々とこなすうちに夢が一つずつ実現しているのを感じます。僕たちは事業ブランド戦略を専門にしていますが、それはテーマやアプローチに他ならず、本質的には「わからない時代にその会社らしい答えを見つける」ことが目的です。僕たちにも外部の視点によるズーム・アウトが役に立ったわけです。