ライフスタイル業態は複雑怪奇でオススメしません
◉結論的に言えばやめた方がいいかも
ライフスタイル業態とは顧客の生活を想像して衣食住全てをトータルな生活シーンで提案して購買を喚起するというもので、記憶を辿りますと、8〜9年前にロンハーマンなどがブレイクした(というような情報がメディアなどから流れてきて)ことなどにより、ネコも杓子もライフスタイル型業態だーとかいって盛り上がり、同時にその頃から服が売れなくなったので、売上を総量で確保するために取り扱いジャンルを広げるという意味でも大変便利なコトバとして使われだしたというような印象です。
あまりに便利なので濫造されすぎて、単一ジャンル業態なのに、イメージ写真にモデル使って生活シーンを醸し出してるだけでライフスタイルブランドですって言ってみたり「雑だなー」というリリースもいくつか見かけました。
ちなみに、その場合は大半がアパレルが雑貨や家具・インテリアに乗り出すパターンがほとんどでしたが、その逆で、インテリアショップがアパレルを増やすという逆パターンも部分的には同時発生的にあったような気がします。(どちらも難しい)
その頃、端から見ていて、楽しいけどとても大変で煩雑だった自分の実務経験から「やめたほうがいいのに・・」と思いながら注目していたことも思い出しました。
ある専門家が別の分野を開拓し、扱うわけですから、はっきり言って既存でやってたジャンルよりも相当骨が折れるんですよ。
実際にライフスタイル業態をやられた方はわかると思いますが、大概が「手間の割に成果がぽっちり」といったことになりがちです。
ですので、結論はライフスタイル業態はやめたほうがいいということです。
さすがに今はもう無いかもしれませんが、もし今ライフスタイル業態をやろうかな・・と思われる企業、個人の方がおられたら、特に既存業態に追加して、なんてパターンで企画されていたとしたら、立ち止まって熟考されることをオススメします。それぐらい面倒くさいし、仕込みも管理も開発も大変です。
その割に、意外と成果ぽっちりですし、花が咲くまで時間がかかります。 たまーに相談されたりしますが、大真面目にやめといたらと言ってます。
その理由をいくつか書いてみたいと思います。
◉事業計画、MDを組立てることから伝統芸能レベル
計画を立てる時って、まずは目標を2つ設定すると思います。
A:定性的な目標_前回のnoteに書いた企画ワークですね、いわゆるコンセプトです。この業態はどうなっていたいか。顧客にどう思われたいか。企画ワークとしては夢が膨らみまくるので楽しいです。この時点では、ただ楽しいだけです。
B:定量的な目標_売上や利益や在庫計画など、財務系の目標値ですね。これが無いと話になりませんし、むしろざっくりこれを良化させたいからライフスタイル業態に。。という話になるんだろうと思います。(このざっくり良化させたいという発想がもう負け戦です)
上記A、B、それぞれに応じて定性的な変数と定量的な変数が存在しますが、この時点でだいたいの人は「あ、ヤバい」と思うはずです。(勘が鋭い人はすでにヤバさに気付いて意思決定の前に負け戦を避けると思います)
何がヤバいかって、変数が爆発的に多すぎるんです。もし、既存で単体ジャンルしか扱ってなく、業容拡大(だいたい売上確保や、テナントスペースを服だけで埋めれないからという側面も多いらしいですが)の意味で単純にこれをやるとえらいことになります。大概の組織では余裕ありませんから、人的リソースや組織内インフラはそのままでしょう。恵まれた組織だったら数名ほど「FらんFらん」のバイヤーやってましたー的な経験者を雇ってということもあると思いますが、これでも焼け石に水です。
アパレル業態から、もし家具、ファブリック、雑貨のフルラインでインテリアをやるとなったら、カテゴリの種類だけで数百カテゴリ一気に増えます。
しかも、カテゴリ複数またいで面倒みてくれるような便利な取引先もありません。商慣習やロットなどの条件もそれぞれ違います。なんなら上記フルラインを3つで簡単にわかりやすくするために、そのうちの1つを「雑貨」というくくりにしてしまいましたが、この「雑貨」というカテゴリだけでも、その先に異次元多次元のカテゴリ数*取引先*商慣習*各種条件の数々・・・たぶん慣れないと吐くと思います。
吐きながらも、全ての点を線にして、視座を上げたり下げたりしながら絶妙なバランスで計画を面にしていく作業をするのです。私はこれに1〜2ヶ月かかります。
上記のA_定性的な目標は夢のままでいい感じなものをアウトプットしたとしても、B_定量的な目標作成時と、それを実行するための運営を考えると確実に手は止まります。
「単価はどうなるの?」「家具ってどれくらいの頻度で買われるの?」「カーテンって決まった測り方があるらしい」「大物インテリアの送料ヤバくね?」「どこにどうやって陳列して在庫持っておくの?」「在庫回転率の設計は?」などなど、はっきり言って知らないとエイヤーの世界になります。
アパレルだと、だいたい店でグレードが決まっているところが多いようで、カットソーが5000円前後ならジャケットは15000円、コートは25000円、靴は展示会で引いてきた10000円前後のニューバランスの996という具合にだいたい価格帯の世界が決まるものですが、ライフスタイルはそんな相場感はあまりありません。というか先ほどから書いてますように、複数カテゴリの変数が多すぎて相場感は形成しにくいのが実状です。
ニトリに行くと、掛け布団カバーが1490〜1990円くらいがメインで売ってるのですが、家具のベッドコーナーにいくと10万円オーバーのマットレスとかザラに置いてます。お値段以上といって単純に価格安いイメージありますが、冷静に見るとそうでもありません。グレードが上と思われれている無印良品では、掛け布団カバーは2990円〜3990円です。ところがマットレスは高くても79000円くらいです。
両者ともおそらくカテゴリによって組織や担当が分かれて仕入れ政策が異なったりるのかと思いますが、それで売れるのですからそれでいいという見方もできますが、まあわかりにくいです。
このような複雑怪奇な変数を突破して、万が一PL上は鉛筆ナメナメで事業計画をごまかし作ったとしても、BS観点ではごまかし利きません。はい、在庫計画です。仮に衣料品的な回転率とバーゲン消化をコントロールしていた意識からすると、年に数回も動かない家具やインテリアなんて、在庫をどう計画するか、はたまた在庫の資産評価の管理会計ルールから作らないといけないことに気づきます。
面倒臭いからといってプリントTシャツや花柄スカートのノリで家具の在庫を評価して、プロパー消化をあきらめて早々とバーゲン消化したりすると悪手極まれりです(さすがに無いとは思いますが)。あと、そもそも家具なんてデカイ在庫をどうやってどこに置いておくのか、それの保管コストや送料コストはどのようになっているのかといったCF的な重要要素も加味しないといけません。
ここに関しては、15年やってる私でも毎回新たなことに気づかされたり、教えてもらって勉強することもあるぐらいです。毎回何かしら失敗してます。
そこをくぐりながら、複雑な事業計画を立てて、裏にいろんな商慣習や条件が犇めき合う数百種類のカテゴリをにらめっこしてMDを組み立てていかねばならぬのです。ここは完全に職人芸の領域です。
◉企画が結構単純化しがち
キレイなコンセプト、とりあえずヒーヒー言いながら作った計画、これをもとに実際に売り場や商品や編集を組み立てていくわけですが、ここでも問題が。そもそも実務をやったことない人が想像でできるのはコンセプトまででして。
実際に「で、どやってやるのよ」的なツッコミが四方八方からくるのです。
やったこと無い上に、時間も無い中で各所からツッコミがくるので、そこは人間なので競合や参考先を勉強しにいきます。コピーではありませんが、参照、引用というステップを脳内で行いますので、どうしてもどこかで見たようなものになりがちです。企画を通す側も「**でやってました。@@社の情報では売れてるらしいっす」という理由で押し通せるという利点もありますが、私はこのパターンでつくった企画の匂いを嗅ぎ取ったら大概は避けるように発言するか、時には練り直しという決断もします。理由はいろいろありますが、自社の顧客の生活を想像して提案するライフスタイル業態ゆえに、どこか(他社の顧客向け)で売れてたものそのまんまが自社で売れる保証などどこにもないからです。
**で◉◉が売れてるという定性情報はあくまで抽象化させて脳内に染み込ませ、それを他業種なら、自社ならどういう文脈で再解釈・再定義できるかというところまで落とし込まないと独自性や確率が上がらないのです。
また、万が一初回にオリジナリティの高い企画を開発したとしても、アパレルほどトレンドの回転も早く無いし、定番的な商品も多いので、どうしても、どうしても煮詰まるのが早くなり、煩雑さも後押しして、過去の焼き直しが多くなってしまいがちです。
まあ、ここは本当にバランスが難しいです。インテリアの世界というのは極論を言えば結婚式の商談ぐらい人生においての接触回数が少ないわけで、食べ物やアパレルよりも何倍も実はド定番を求める人が多いのです。つまり衣食よりも、定性的なこだわり度も高くなく失敗をおそれる買い物なのです。ファッションならヴィトンやエルメス、シュプリームなどなど、グルメでも魚沼産の米、関サバ、行列のできるお店などなどブランドによるこだわりや吸着度は高いですが、ライフスタイル領域の中核を成すインテリアや雑貨はそこまでの吸着は残念ながらありません。似たようなもので価格が安ければそちらへ流れがちです。(このあたりの話はまた後日書くとして)
◉顧客がそもそも衣食住すべてを同じ店で買うわけない
自分が消費者なら当たり前の行動なのですが、発信者側に立つと不思議とそのことを忘れてしまいがちです。前回の投稿でも触れました。
それは、結局のところ発信者側で企画を作る前提が、自社の顧客が自分の業態で全て買い物を完結させるという「囲い込み」の発想で行っているからです。自分が消費者の立場に立てば決してそうではないことはわかっているのに企画者の立場になるとそれを忘れて360度全て自分のところで買ってもらおうと考えてしまうのです。そんな都合いい客いるわけないのに。
つまり、ここでもう事業の前提が崩れてしまうのです。そこをわかって現実的な部分を睨んで組み立てるか、ただの理想だけ、べき論だけで推進するかで大きく結果は変わるのですが、手間の割に成果はぽっちりなので、やめたほうがいいですというのが私の持論です。
◉だいたい失敗してるかすぐに修正している
従いまして、ここ5〜7年以内に華々しくデビューしたライフスタイル業態(と呼ばれるもの)は大概が失敗してるかすぐに修正しているのではという印象です。1年目から成功してる、儲かってる、といった業態はほとんど聞きません。昨今のAI同様ただのバズワードかもしれません。自分の強みと顧客のニーズをきちんと理解すれば別にライフスタイル業態ではなく自社の強み(=何かの専門)を活かす、深堀するほうがよほど近道です。少なくとも数年は辛酸を舐めながらノウハウや寝技を会得しないことにはなかなかうまくいかないので本当にオススメしません。自らの強みを活かしましょう。