映画『私にふさわしいホテル』
主演がのん、監督は堤幸彦、そして山の上ホテルといった情報は把握していたが、それ以外はほぼ白紙。予告編である程度は雰囲気をキャッチしていたので、のんがここにはまるか、それともすべるか…という僕の中で期待と不安があったのは否めない。はたして…。
のん、全開。はちゃめちゃさと振り切ったやり過ぎかもしれない演技でも、それが普通に感じられて魅力になってしまうし、七変化的に様々な衣装と髪型で登場するが、そのすべてが似合って納得させられてしまう。これはもう才能なのだろう。映画のテーマはシリアスではあるけれど、コミカルにテンポよく描かれる文壇下克上は、くだらなさと愉快さが交互にやってくる楽しさもあり、一気に見せられてしまう。1カ所だけ声を出して笑ってしまった。
鑑賞後、ネットで読んだ原作者の柚木麻子×堤幸彦対談。ここでの柚木さんの発言が印象的だった。僕が映画に感じた魅力はここに集約されているかもしれない。
日本の映画ってただ悪辣な女の子ってほぼ見ないので、いい人になっちゃうかもという不安はあったんです。たとえば死んだ妹のためにがんばってるとか、本当はかわいげがあるとか、担当編集の遠藤先輩との間に恋愛関係が匂うとか、もしくは加代子の本で救われた人が出てきて書き続けてくださいって言われて涙がポロッとなるとか。それでもしょうがないと。でもそういうことが一切なく、加代子は一回も反省することもなく、そこがもう本当に嬉しかったです。「NiEW 柚木麻子×堤幸彦監督対談『私にふさわしいホテル』から日本のジェンダーを考える」から引用
のん、田中圭、滝藤賢一の3人芝居的な堤幸彦演出も見応えがあった。そうそう、短いながらも橋本愛との共演シーンには個人的にグッときた。2025年の新年一発目の映画がこれでよかった。元気が出た。