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映画『碁盤斬り』

新作の映画は事前情報をほとんど入れないで観る。主要キャスト以外の出演者や監督も知らずに観ることもある。もちろんチョイスする基準は " 好きな俳優や監督の作品 " として選ぶことが多いのだけれど、それでも僕の姿勢としては、なるべく真っ新で臨むことである。

しかし、『碁盤切り』は僕の思いどおりにはいかなかった。意識して避ければよかった…のだけれど、草彅剛が出演したプロモーションを兼ねたテレビ番組をいくつか観てしまったのだ。しかも、そこでの草彅のハイテンション振りが、映画に対して僕が持っていた事前イメージをことごとく破壊するのだ。これはいけない。そう思ってもあとのまつり。はたして…。

映画が始まって数分も経たないうちに、事前に抱いていたネガティヴな思いは吹き飛んでいた。落ち着いた色あいと、美しい静けさの中に緊張感が溢れる映像に引き込まれる。この印象はそのままエンディングまで続いた。映画につけられた " 感動のリベンジ・エンタテイメント " のコピーがとてもわかりやすいストーリーとなり活きていたのも、時代劇を得意としていない僕も心から楽しめた要因だ。序盤から徐々に…しかも急展開な場面さえ自然に感じさせて盛り上げていく演出と構成も見事で、ストレスなく物語に没入。物語が進んでも、重要な役どころである柴田兵庫(斎藤工)にはなかなかお目にかかれないのだが、画面に現われてからは、決して長くはない時間ながら、一気にたたみかけられる柳田格之進(草彅剛)とのシーンには息を呑む。この展開は素晴らしかった。

楽しみにしていたお絹(清原果耶)は、まずは想像していた以上に出ずっぱりで、その出演シーンの多さが嬉しかった。どんな役でも変わらぬ存在感はさすが。お絹の役は地味だったかも知れないが、常に父である格之進(草彅剛)と共に物語の中心にいたし、リベンジ・エンタテイメントを成立させる重要な人物を完璧に演じ、もうひとりの主役と言っていいほどだったと思う。彼女の代表作のひとつになるのではないか。

お庚(小泉今日子)がかっこいい。時代劇の中に小泉今日子がそのままそこにいるという感じであったが、僕には何の違和感もなかった。この他の脇を固める萬屋源兵衛(國村隼)、長兵衛(市村正親)、弥吉(中川大志)も、それぞれの人間的な面が活きていて、鑑賞後にアタマの中から消えてしまう登場人物はひとりもいなかった。

草彅剛が演じた柳田格之進が醸し出す全編でクール、かつ、内に秘められた熱いものが静かに燃え上がるような雰囲気は、同じような印象だった映像と比例していて素晴らしいと思った。あたりまえだが、映画の宣伝番組で観た草彅は、スクリーンの中にはどこにもいなかった。

事前に想像していた草彅剛と斎藤工とのシーンは、思っていたよりも短く、物語の中でも占める比重は少ないのだが、二人があまりにもハマり役だったので、映画が柴田兵庫に対する柳田格之進の復讐であり、二人の物語であるということはじゅうぶんに伝わってきた。僕の個人的な感想ではなく、おそらく他の観客にも伝わったと思うし、思いたい。

白石和彌の監督作は初めて。2024年らしい時代劇。とても楽しめた。

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