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私の人生には常にその映画があった。/映画『ソラニン』

【中学時代】

コノサカズキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトエモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ

井伏鱒二訳「勧酒」

中学2年生
国語が専門の担任の先生からこの詩の存在を教えてもらった。

どのような経緯でこの詩を知ることになったのか。その経緯を思い出すことはできないが、このフレーズだけは頭に強く残っていた。


中学3年生
受験のために毎日夜遅くまで学習塾へ通っていた。

家から歩いて10分と少し。
買いたてのウォークマンには、「リライト」という曲で知ったASIAN KUNG-FU GENERATIONの曲が何曲かダウンロードされており、毎日のようにアジカンを聞いていた。

その中でいちばん惹きつけられた曲が「ソラニン」であった。
その曲の冒頭の、国語の先生に教えてもらったあの詩の一節について触れられている歌詞に私は心を奪われた。

思い違いは空の彼方
さよならだけの人生か
ほんの少しの未来は見えたのに
さよならなんだ

ASIAN KUNG-FU GENERATION「ソラニン」

受験が無事終わり軽音楽部のある高校に合格した私は、中学の卒業までにエレキギターを購入し、この曲だけは弾けるようになろうと日々練習を重ねていた。


【高校時代】

高校1年生
軽音楽部に入り、バンドを組んだ。

毎年恒例だという卒業ライブでは、ライブハウスを借りて校内外問わず多くのバンドが3年生の卒業を祝っていた。

その中の部長率いるバンドが最後に演奏した曲がこの「ソラニン」だった。
それはどうやらこのバンドにとって、とても思い入れのある曲らしかった。


高校2年生
『ソラニン』という映画があるということを同級生から聞いた。
それもどうやらバンドに関する映画らしいということを聞いた。
今まで聞いていた「ソラニン」という曲にとても関わりのある映画だということも聞いた。

家に帰り、すかさず私はその映画を視聴した。

以下、本作のあらすじである。

自由を求めて会社を辞めた芽衣子と、フリーターをしながらバンドを続ける種田。未来に確信が持てず、寄り添いながら東京の片隅で暮らす二人。だが、芽衣子の一言で、種田はあきらめかけた想いを繋ぐ。種田はバンド“ロッチ”の仲間たちと新曲「ソラニン」を完成させレコード会社に持ち込むが、反応のないまま日々は過ぎていく。そんなある日、種田がバイクで事故にあってしまう。遺された芽衣子は――。

あらすじ(フィルマークスより引用

この映画を見てから、曲の「ソラニン」に対する気持ちが大きく変わった。ただそれを的確に表現する術が当時の私にはなかった。
ただの別れの曲では無い。前向きで暖かい曲だというイメージを持っていた気がする。

映画の内容は本当に素晴らしいものであったが、人生経験の浅かった当時の私にとって、あまり共感できない所もいくつかあった。
それらの部分に共感できるようになったのは、大学に入学してしばらくしてからの事だった。


【大学~現在】

大学2年生
映画『ソラニン』には、原作となる漫画があるということを知った。
それも原作者は、当時私が読んでいた「おやすみプンプン」の作者と同一であるという。

例のごとく私はすかさずブックオフに向かい、「ソラニン」の漫画を手に入れた。

そして私はこの漫画を読んであることに気がついた。
それは種田がムスタングを使っていたということだった。

ラストの曲が終わっても
俺はムスタングでAメジャーセブンのコードをこれでもかと掻き鳴らして
右手の握りこぶしを高々と掲げるんだ

浅野いにお「ソラニン」より
これがムスタングというギター

この情報を踏まえて久しぶりに映画を見返したら、映画の中でも確かに種田はムスタングのギターを使っていた。

この一見なんとも無いように思われた事実が、私の長年の疑問を解いてくれた。

それは、なぜ映画『ソラニン』のED曲が「ソラニン」ではなく、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「ムスタング」という曲であるのかという疑問だった。

当時は、(アジカンのソラニンじゃないんだ~)くらいにしか受け止めておらず、(なんでムスタングなんじゃろ。)なんて漠然と思っていたけれど、その理由が長い年月を経てわかった。

そっか!!種田(芽衣子)が使っているギターがムスタングだからなのか!!!と。


すべての事柄に因果関係が有るとは到底思えないが、それでも私と『ソラニン』との出会いとそこから生み出された気付きと感動の数々は偶然が絡まりあった必然のように思う。

中学のあの時、井伏鱒二の詩を教えてもらうことがなかったら、私はアジカンの「ソラニン」という曲をなんとなく聞き逃していたことだろう。

詩→曲→映画→漫画→曲
私はこのようにこの作品たちに出会い、新たな気付きを得、その度に心を動かされた。

あるものとの偶然的な出会いが、必然的にまた新しいあるものとの出会いや気付きのきっかけになる。

私にとってこの映画は、そんな人生の楽しみ方を教えてくれたかけがえのない一作となっている。

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