謎の同居人?

 私は「本当にあった怖い話」とか「心霊特集」とかを怖いと思いながら見てしまうタイプなのだが、けっして我が身にそんなことが起きてほしいなんて1ミリも思っていない。あのようなオカルトめいた話はあくまで他人事だからドキドキ、ゾクゾクしながら見ていられるだけの話。 それなのに…!
 ひなちゃん、夫、私の3人でさて寝ようかというタイミングになり、お布団に寝転がったところ
「あ、かめちゃんいる!」
とひなちゃんが突如つぶやいた。
私と夫は
「何のこと?」
「どこにいるの?」
とそれぞれに質問してみた。ひなちゃんは
「ここ、ここ、かめちゃーん!」
とまるでそこに誰かいるかの様に天井?空中?を指さし呼びかけた。
「子どもにしか見えないやつ?」
「今までそんなこと一言も言ったこと無かったから急にやってきた何か?」
と私と夫はあれこれ仮説を立ててみたが、その日原因究明とはいかなかった。
 リビングにあるカメの人形でもなければ、以前追い出せずに三日間同居することとなったカメムシの「かめちゃん」のことでもなかった。
 それ以来、時々ひなちゃんは私たちに「かめちゃん」なる者の存在ををアピールするようになった。
和室で
「かめちゃん、お家帰るよー」
とまるでそこに「かめちゃん」がいるかのように話しかけたり、
「あ、かめちゃんあそこ」
と冷蔵庫の前を指さしたりもした。
 ひなちゃんから得た「かめちゃん」の情報を総合するとたまに和室やリビングなどに移動することはあるが、基本的に台所の特に冷蔵庫の前に居座っていることが分かった。まれに「あむあむ(ひなちゃんが食べるという動作を表す音)」と何かを食べる様子が見られるらしいことも分かった。
 気づけば私たちも知らないうちに同居していたらしい「かめちゃん」の存在を少し意識するようになってしまった。勿論一切存在を感じられないことは変わらない。ただ、冷蔵庫の前を掃除していて、
(もしもかめちゃんが想定以上に小さかった場合、掃除機でうっかり吸ってしまうことはないのだろうか?)
と疑問に感じたり、
「かめちゃん、いたらすみません。掃除しますよ。」
と心の中で声までかけてしまったりもした。
 全くどうかしている。
 どうかしているのだが、ひなちゃんがまるでそこに「かめちゃん」がいるようなふるまいを見せるとこちらも無視しきれない。
 どうにも気になったため私は「2歳児幽霊見える?」、「2歳児見えない友達」と適当な単語を組み合わせてネットで検索してみた。
 本当にお化けや幽霊あるいは妖怪?的な者がすぐ近くにいてたまるかと、何でも良いから怖くない答えが欲しかったのだ。
 すると「イマジナリーフレンド」という一つの単語が現れた。
 幼児特有の減少とされ、空想上のキャラクターを作りだすものでまるでそこにいるかのように一緒に遊ぶこともあるらしい。長子、ひとりっ子、女の子に出やすいという特徴があるようだ。ひなちゃんはどれにも当てはまる。
(もうこれに違いない。いやこれであってくれ。)
とさえ思った。
 こちらが一安心すると、不思議なものでひなちゃんもそれほど「かめちゃん」の存在を協調することはなくなった。
 暫くして、
(あれ?そういえば最近「かめちゃん」の話しないな。どっかにいったのかな?)
と思い
「かめちゃんどこにいるの?」
とひなちゃんに尋ねると、突然つかつかと冷蔵庫の前まで行き何かを手に取り戻ってきた。
そして私にその何かを手渡し
「かめちゃんだよ」
と言った。
(あれ?「かめちゃん」って触れるものだったっけ?)
と思いながらよく触ってみるとそれは前に友人にもらった緑のカエルの人形だったのだ。
 お腹部分に磁石がくっついており私が冷蔵庫に張り付けていた物だった。
「あれ?これカエルじゃん。」
と私が言うと
「カエル違う。かめちゃん」
とひなちゃんは言い張った。
 どうやら謎の「かめちゃん」はお化けでも幽霊でもましてや妖怪でもなかったのだ。偶然ひなちゃんが見つけたカエルの人形をイマジナリーフレンドとして擬人化し遊んでいたに過ぎなかった。冷蔵庫にくっつけられたカエルがひなちゃんの想像の中では動いたり、何かを食べたり、時にはひなちゃんと離したりしていたようだ。
 一先ずカエルという元ネタが判明し「かめちゃん」騒動は一件落着となった。
 子どもは大人とはまた少し違う、不思議な世界に生きているものなのだと感じられる一件であった。

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