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生ごみから堆肥を作ってコミュニティガーデンへ 平希井さん〈後編〉

 9/7の放送は前週に引き続き、ローカルフードサイクリング株式会社の平希井(たいら・けい)さんをゲストにお迎えしました
 同社は福岡県を拠点に、微生物の働きを活用して家庭からでる生ごみを分解させ堆肥(たいひ)にする事業を展開されています。

  生ごみや落ち葉などの有機物を、微生物の働きにより発酵・分解して堆肥をつくること、またそのための容器は「コンポスト」と呼ばれています。
 後編では、地域住民がコンポストで作った堆肥を使うコミュニティガーデン事業など、「半径2kmの生活圏で食が循環する仕組み」を中心にお話をうかがいました。

トートバッグ型のコンポストで堆肥を持ち運ぶ

 私たちローカルフードサイクリング株式会社が開発・製造・販売を行っているのは、トートバッグ型のコンポストです。都市部で暮らす方たちがコンポストに取り組みやすくする方法を試行錯誤した結果、この形にたどり着きました。

 都市部では集合住宅にお住まいの方が多く、コンポストでできた堆肥を使い切れないという課題があります。もちろん、ベランダで野菜を育てるのに使っていただくに越したことはありません。ベランダで収穫した野菜が食卓にのぼるなら、まさに半径2mの場所で食の循環を実感できますね。

 とはいえ、私も上京して驚いたのですが、東京の集合住宅のベランダはとても狭いです。これまでも「この限られたスペースでは堆肥を使い切れないよ」というお声をユーザーさんからいただくことがありました。

 そのため、地域の農家さんなどとつながって、この堆肥を循環させていく取り組みに参加していただこうと、私たちは回収拠点へそのまま持っていきやすいようにバッグ型を採用したというわけです。回収した堆肥はコミュニティガーデンで使っていただいたり、農家さんにおつなぎして、栽培した野菜を販売していただくといった形で活動しています。

 この LFC コンポストはただ売って終わりではなくて、ユーザーさんに寄り添って常に伴走しながら普及しています。その一環として、公式の LINE ホットラインでコンポストについての疑問やお困りごとなどをご相談いただき、一人ずつ丁寧にお答えしています。また、都内で堆肥の回収相談会なども開催しています。

子どもの頃から「生ごみを捨てない暮らし」を

 LFC コンポストのユーザーさんで最も多いのは、30 ~40代の女性です。お子さんがいらっしゃる方も少なくないのですが、幼い頃からコンポストのある環境にいることで、成長しても「生ゴミを捨てないのが当たり前」という認識が育まれていたら素晴らしいですね。

 コンポストに取り組むご家庭では、それが親子共通の話題にもなっているようです。生ごみを入れると温度が上がるといった変化は会話のきっかけになりますし、コンポストに名前を付けてペットのように接しているご家庭もあります。そのような日常生活を経験した子どもたちは、やはり大人になった時の行動が違ってくるのではないでしょうか。

 先週もお話しさせていただきましたが、まさに私自身、祖母も母もコンポストを使っていて、それが当然という環境で育ってきました。幼い時、祖母が漬物をつくるお手伝いをしたな、畑仕事を一緒にしたなと、一つ一つが実に楽しい思い出として心に刻まれており、今につながっています。

 祖母は今82 歳ですが、堆肥作りを誰よりも楽しんでいます。実験を繰り返すのが本当に楽しかったようで、その後堆肥を使った野菜づくりに目覚め、今は野菜の加工所を独立して運営しています。その背中を見ていると、ついていきたいなとか負けてられないなと感じずにはいられません。

 これらの体験から、コンポストの取り組みを教育の枠組みの中に取り入れていただけないものかと考えてます。すでに教育機関とは少し関わりがあり、例えば小学校ですと 4 年生でゴミの勉強をします。ゴミ処理場へ見学に行ったりして勉強しているタイミングなので、そこでコンポストに 1 か月間チャレンジしてみようということで、クラスに 1 個とか 5 人グループに 1 個という形でお世話をしてもらうわけです。その後、ご家庭でも引き続き取り組んでくれるお子さんもいらっしゃいます。

消費者と生産者が堆肥でつながるコミュニティガーデン

 私たちの事業にもプラスになることですが、ふるさと納税でローカルフードサイクリングを支援できる仕組みができました。今年6 月ぐらいに決まったのですが、福岡市の「ソーシャルスタートアップ成長支援事業」に採択されたのです。これは「企業版ふるさと納税」の枠組みによるもので、企業が福岡市に寄付をすると、その寄付額の約90%が法人関係税から控除されることになります。

 この事業で私たちが今後目指しているのは、循環型のコミュニティガーデンを全国に 約1500 か所展開することです。そのコミュニティガーデンではただ野菜を育てるだけではなく、住民の方たちが堆肥を作り、それを地域で循環させる仕組みがインストールされたものです。

 私は大学院時代、修士論文の研究で海外事例を調査してきましたが、ニューヨークで印象に残っているのは、おしゃれな格好をした若い女性が生ごみを「持ち寄る」といった雰囲気で登場したことです。もちろん堆肥化もしていて、それを NGO の人たちが回収するのですが、こんなにおしゃれな仕組みをつくれるのかと衝撃を受けました。

 現在、私たちのコミュニティガーデンはホテルの屋上などでも展開していて、そういったところを含めると計 20か所ぐらいになります。今後自分たちで一から広げていくというよりは、他のすでにやられている方々とも連携しながら 1500 か所を目指していけたらいいなと思っています。

 それが実現すれば、皆さんのお家の近くに循環を実感できる拠点ができます。皆さん自身がベランダで使いきれなかった堆肥を、ちょっと広がった範囲でカバーできますし、私たちが目指している「半径 2 kmの循環」という目標にもより近づきます。

 私は食いしん坊ですので、「美味しい野菜が食べたい」という思いは、この活動に参加し続けている大きな理由でもあります。「これは誰の野菜?」と尋ねたら、すぐ「誰々さんの野菜だよ」と言ってくれて、かつその人が知り合いなら、すごく安心感がありますよね。ちょっと苦手な野菜でも、その人が一生懸命作ってくれたんだと思いながら食べると、なんだか美味しく感じます。

 どこでどんな人がどういうふうに作ったかがわかっているものが口に入る日常はすごく豊かで幸せだなと感じてきましたので、そんなことがたくさん起こるような仕組みを作っていきたいなと思っています。半径 2 kmの資源循環、栄養循環をつくっていくことも、そこにつながっているのかな、と。

 私たちは与えられるばかりではなくて、堆肥というツールがあれば、農家さんに恩返しをすることができます。ただの生産者と消費者の関係ではなくて、与え合う新しい関係を作っていけるのが、コンポストの新しい役割だと思っています。

◆中村陽一からみた〈ソーシャルデザインのポイント〉
 終盤コミュニティガーデンという話も出ていたように、各家庭での取り組みをさらにコミュニティレベルでつなげていく、まさにそのデザインをどういう風にしていくかというのをローカルフードサイクリングというコンポストを通して組み立てているのは、コミュニティデザイン、ソーシャルデザインといえる。
 コミュニティガーデンという構想自体は、例えばクラインガルテン(市民農園)という活動もこれまでにあったし、またパーマカルチャーと言って調和のとれた環境を生活しましょうというものもあったなか、拡がりが今一つ持ちにくかったが、そこをいまもう少し広げていきたいと思う。


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