【読書】『星の王子さま』が光を放つわけ
『星の王子さま』。
数えきれないほどの人がこの本について語ってきたけれど、決して語り尽くされるということがない、不思議な名作。
何度読んでも、読み終えた気がしない。
何度語っても、語り尽くせた気がしない。
それは、なぜなんだろう。
だってこんなに薄い本なのに。
子どもにも読める、平らかで素直な言葉で書かれた本なのに。
あらすじだって極めてシンプルだ(砂漠に不時着した飛行士と、彼の前にふいに現れた不思議な少年「星の王子さま」との友情の物語)。
それなのになぜ、この物語は、これほどまでに「読み終える」ことができないんだろう?
そんなことをぼんやり思いながら繰り返し読むうちに(読み終えた気がしないので、何度も何度も読んでしまう)、物語の中に出てくるこの文章が、その秘密について明かしているように、わたしには思えてきた。
「砂漠の井戸」は、ただの井戸とはまるで違う意味を持つ。
「砂漠の井戸」は、熾烈な太陽や死の恐怖のその先に見つけた希望そのもの、喜びそのものだ。
そのことを心が感知する、だからこそ「砂漠の井戸」はただの井戸とはまったく違う光を放つ。
この物語も、きっと同じ。
ここには、読み手自身の人生が含まれている、だからこそ、読み手の心がそれを感知して、光を放つ。
この本を語ろうと思ったら、「自分の人生」を語らなくてはならない、だからこそ、語り尽くせない。
童話風で子ども向けにも見える、この物語。
でもこの本は明らかに大人向けだと、わたしは思う。
そこに隠された光を見るために、読み手のそれまでの人生を必要とするから。
自分の人生と照らし合わせることなしには読めない物語だから。
人生はもちろん人によって違うから、読み手によって、あるいは人生のどの時期に読むかによって、そこに見える光の色もまた、変わっていく。
『星の王子さま』は、覗きこむたびに見えるものが変わる魔法の水晶みたいな名作だと、わたしは思う。
最後までお読みいただきありがとうございました。
どうぞ素敵な読書体験を!
※書影は版元ドットコム様よりお借りしています。