<ブルックリン文化風俗アーカイブ記事>これぞビギーからの贈り物=限定メトロカードの転売ハッスルに余念のない地元民の記録
これはブルックリン記録係としてちゃんと記しておかないと、と思ったので気合が入っております。2022年5月の話。
この週末、MTAがビギー(ノトーリアスBIG)生誕50周年を記念して限定5万枚の「ビギーメトロカード」を発売した。
ベッドスタイ(っていうかクリントンヒルなんだけどネ)のビギーの生誕地近く、フルトンストリート沿いに点在する「ビギーゆかりのMTA4駅」の券売機でしか買えないとあって、発売開始直後から結構な行列になっていた。
昔からパーティーのフライヤーとかプロモグッズなどを大事に取っておくタイプの旦那、ビギーはご近所さんでタメだったし、当然サポートしなきゃいけない(という大義名分の投資)、ということでウキウキ行列に並んでいた。
何しろ発売価格が一番安いタイプで5ドル50セント(新しいカードの発行の場合は+1ドル)なので、クレジットカードを持ってる大人ならば手持ちの現金を問わずかなりの枚数が買えてしまう。しかも、昨日の夜の段階ですでにネットでは1枚150ドルで取引されているというではないか。これを投資と呼ばずにいられるか!
なのでカードが使える券売機はどこもすぐに在庫切れになってしまったらしい。券売機にお釣りとしてどんなお札や硬貨が残っているかによって「硬貨オンリー」「お札のお釣りは○ドルまで」とか、購買条件が刻一刻と変わる上に読めない。ギャンブル!
駅や券売機、そして並んでる人のタイプによって現場の雰囲気は様々。ワルそうな輩が前のめり気味に行列してるところでは当然小競り合いなどもあり、NYPDが「一人2枚まで!」とか勝手にルールを作ったりして列をさばいていたらしいが、昨日旦那がたまたま見つけたマイナー(でかい駅の端っこにあってあまり利用者がいない)な券売機の行列は短い上にNYPDの姿もない。とりあえず旦那は懲りずにまたそこに並び、家でチルっていた私にも「ビギーエクスペリエンスとしてお前も並べ」とか言ってきた。
行列が大嫌いなので始めは無視していたが、現場の記録は足で稼ぐのが鉄則(大げさ)&並んでる間に券売機の釣り銭状況が変わり「現金オンリー」になってしまった、ということで旦那が「今から現金もってこい」と言い出した。
たまたま先日のアンティークショウでの買い出しのためにまとまった現金が財布に入っていたはずだし、サザビーズで見たヒップホップ収集品の法外な高値状況などが脳裏をよぎり「やっぱり行くしかないなコレは」と気持ちを切り替え、財布を持ってバークレイズ駅まで小走りサザエさん。
到着すると私達の前には7人。確かに列はそこまで長くないし、並んでる人も大人しめ。極めてピースフルな環境。
列の先頭にはここぞとばかりにハッスルしてる婆ちゃん(とか言いつつ、きっと私と同年代)と娘、その息子。
婆ちゃんはひたすらカードを買いまくり、券売機から出たばかりのほやほやビギーカードを取り出したらすぐに孫に渡し、行列の後ろの方まで走らせて「並ぶ時間が惜しいならこれを50ドルで買え」とハッスルさせ、そこで調達した現金を持って孫が列の先頭に走って戻ってきて、そのお金でまたカードを買う、というのを延々とループしている。娘は娘で、でかい声で「ビギーカード!200ドル!」とか言いながら行列には並んでいない駅の利用客を相手にハッスルしている。
その家族だけでたぶん30分くらいは券売機を占領していたと思うのだが、驚いたのはその行列の誰もがイライラしながらもヤジを飛ばしたりせず、多少のイヤミは込めつつも「いよっ!起業家!」とか言いながら彼らのハッスルを笑って許している姿。だって、どうせ自分たちだっていつか転売して儲けようというハッスルマインドありありで来てるわけだから。「みんな同じ穴のムジナ」「ハッスルに貴賎なし」的なムード。
これって、ビギーからの地元民に対する贈り物だよなぁ。「これでハッスルしろよ」的な。
これぞまさしくSpread love, it’s the Brooklyn way(ビギーの有名なリリック)じゃん、とオバさんはちょっと感動しちゃった。
ちなみに、行列の先頭部分の人たちに手当り次第に「今この立ち位置譲ってくれたら40ドル払う」みたいな小金持ちっぽい身なりのディーラーの地味なハッスル(それに対し「いや、1000ドル払え」とかハッスル返ししてる猛者もいたw)とか、よく見ると電話の画面が真っ暗(=電話してる演技)なのに誰かと話してる風の怪しい男が何度か横入りを企てたりなど、有象無象の
怪しいハスラーも周囲を旋回していた。
で、ようやく3世代ハスラーが手持ちの現金を全部使い終わった、と思ったら、今度は婆さんの従順な下僕のようにハッスルしていた娘が「クオーター(注:25セント硬貨)がないと買えないよ、今なら1クオーターを5ドルで売るよ」と新手のハッスルを始めていた。しまいには「この週末はこうやって券売機という券売機を渡り歩いて買えるだけ買い、ネットオークションで売りさばいてもうこんなに稼いだ」とアプリの画面を行列の人々に見せてハイプアップ。
私もチラりとその画面を見たが、確かに今日明日の日銭にも困っているのならこういう臨時収入は命拾いなのだろうけど、願わくば1枚か2枚は無邪気な孫ハスラーに託し、彼が成人する頃まで寝かせておくくらいの長期的なビジョンがあってほしいなぁ、とお節介ながら思った。それこそがジェネレーショナル・ウェルス(世代を超えた富)の構築、それが投資。
途中、真後ろに並んでいた小綺麗な身なりのオッサンがボソりと「1枚100ドルにしてくれりゃこんなに人も集まらず並ぶこともないのに」と賛同を得るように私達に話しかけてきたが、気持ちはわかるものの「それはビギーのオーディエンスじゃないんだな」と心の中で却下。こういうのはハッスルマインドがすべてなの!
ということで、これは我社の公式な投資案件なので大人買い。とりあえず夢は「ビギーでファイヤー」!
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