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たいせつ にすること。

こんにちは。
焼菓子屋の焼き手です。

写真は当店の「スコーン」。
イギリスのお菓子ですね。
サクッとフクッと背伸びさせ、パックリとした〝狼の口〟と言われる腹割れが起きる現象…この〝割れ〟が特徴でもあります。
これらはベーキングパウダーと言う膨張剤のお陰だったりします。

ですが、当店は「スラッシュゼロ」と言う、添加物を使わないことを掲げておりまして、このような膨張剤ありきのメニューは そもそもラインナップに無いはずなのです。
でも、へそ曲りのbekerは菓子屋のクセにパンを焼くような人。

なので、このメニューに於いては酵母(イースト)の、しかも酵母(イースト)の製造過程で使われる乳化剤をも排除する念の入れようで、こちらは有機酵母のパワーをお借りして焼き上げています。

このように書くと、ずいぶん変な店かも知れない…。

私自身のへそ曲がりは認めたとしても、世間との肌感覚、一般的な選択眼とのズレを感じたり、挙句は自分に引け目を感じていました。

最も気掛かりなこと。
店が「変な店」と言われてしまうことです。

今さら…だけど。

・・・・・・・

ある時、お客様にひとつひとつ商品説明をしました。

もうやめると宣言しつつも継続中の発酵菓子や、これは絶対冷凍パイシートでは無いと瞬時にわかる、見た目が正直な手折りのパイ菓子。
種類は少ないけれど、少ないなりに迷える中での…スコーン。

一応、プライスカードには小さくとも商品の特徴を書いている。
でもお客様にとって最も知りたい大事なことは値段であって、細かいところまで誰も見ないわけです。

「こちらは膨張剤など添加物を使っていない」と話した瞬間から、このスコーンさんたちはお客様の手元へ…。

これが何の変哲もない、どこでも見かけるスコーンだったら誰も手に取らなかったでしょう。

お嫁に迎えてもらって良かったね、スコーンさん。
幸せになってねスコーンさん、ではなくて…お客様。

いつもこんな思いになります。

・・・・・・・

最近は、頻繁に昔のことを、若かった頃のことを思い出すんですね。
あぁ、私もトシを取ったなぁと残念な感慨に耽るのです。

以前、修行時代に世話になった先輩や職場の同僚。
連絡が取れなくなった親方とか…。

私は若い頃、割烹で修行をしていた時期がありました。
修行先(店)を変えたこともあります。
修行先では親方から、それは些細なことまで事細かく(口うるさく)指導された時期がありました。

今だからその違いを明確に言えるけれど、菓子の世界と板前の世界は大きく違う。
時代は、あの頃だったからかも知れないが…。

・・・・・・・

打った(刻んだ)野菜を最後まで掬い取れ。
小さな一切れ一切れまで無駄にするな。
違う!煽った(茹で上げた)野菜も こうするんだ。
お前…野菜が泣くだろ。
可哀想だと思わねぇのか?

野菜の扱い方から、焼き、揚げ(蒸し)と、細かく細かく言われ続けた。

ある時は、
お前は、こう思っているんじゃないか?
でも、ここでは自分の思っていることは心の片隅に仕舞っておけ。
いつかは、わかる。

何で私にばかり口うるさく言うんだ?
そう思っているんだろ?
お前は、能力や才能に見合った人間にならなくちゃいけない。
俺がお前をそうしなくちゃ ならねぇからだよ。
お前の、その根性無しも 鍛えてやらないとな…。

詳しくは解らなかったけれど、当時の私は男性並みの味覚があったらしい。

・・・・・・・

私は能力以前に人間的に足りない部分が多いらしく、それが殊に際立っていたらしい。
思い出すこと言えば「何故にそんなことまで言われなければならないのか?」と情けなくなるような日常的な〝躾〟だったりした。

こうして思い出として脳裏を掠めるかすめることといえば、やはり「何故にそんなことまで…」の数々。

そして最近思い出した言葉。
「お前は、誰にも無い強い個性を持っているのに、どうしてそれを出さないのだ」

年齢を重ねた今なら「余計なお世話だ」くらい言い返すところだろう。

・・・・・・・

冗談は抜きにして、冷静になって考えた。
私の現在のさまを、あの親方が見たら何と言うだろうか?

何故に自分が手塩にかけたものを、もっと表に出してやらないのか。
自分が苦労や工夫をして築き上げた部分をどうして胸を張ってお客様に説明出来ないのか。
きっと、そう言うだろうな…。

・・・・・・・

材料が可哀想じゃねぇか。
何で材料を〝たいせつ〟にしてやらねぇんだ。

自分が情けないと思わないのか。
何でもっと自分を〝たいせつ〟にしてやらねぇんだ。

お客様に申し訳ないと感じないのか。
お客様を〝たいせつ〟に出来ねぇ奴は人間じゃねぇ。

材料を、お客様を、そして自分をも〝たいせつ〟にすること。
あの頃、教わったはずなのに…。

すべてのことに〝たいせつ〟を感じられる人間でありたい。

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