映画「対外秘」
韓国映画を劇場で観るのは「パラサイト半地下の家族」「ミナリ」に続いて3作目。(「ミナリ」はストーリーもキャスティングも秀逸な、忘れ難い映画だった)
「対外秘」 いかついタイトルと言い、かつての東映の反社映画のようなスチール写真と言い、封切りが今年でなかったら、まず足を運ぶことはなかったろう。
国会議員に立候補した男が、直前になって他の候補者に公認を奪われ、反撃を開始する。
フィクサーや反社のボスとの関わり…開発予定の対外秘の書類の持ち出しを元に莫大な金をばら撒けば…投票箱そっくり入れ替えの不正で対抗され…裏切り、裏切られ…命が奪われ…と言った、政界に絡む悪人ばかりが蠢く、劇画のような流れで、人物の深い掘り下げは無く、あまり感情移入は出来ない。
映画の冒頭からしばらくは、当選を確信しているヘウンの勢いある演説、政界入りに反対する妻とのコミカルなやり取りなど、イケイケの楽観的ムード。事態は公認を外された瞬間、暗転する。ヘウンの溌剌とした表情はもう見られない。
手段を選ばない裏工作、潰される若きジャーナリストの矜持、誰かを身代わりに仕立て、決して裁かれることのない黒幕、今の暮らしの先に向けた視座を待てない民衆。
政界の黒幕スンテが言う。「政治は悪魔との闘いだ。時には魂を売らなければならない時もある。」
兵庫県政のクーデター騒ぎを遠くで見てきて、何か腑に落ちるセリフだった。
それでも、111万の兵庫県民は抗う事を選ぶことが出来た。自分達が関わらなければいかんと気付いた。日本中が注視する中、"魂を売ってきた"者たちはどう身を処すのだろう。
現実は案外、このドラマのようにシンプルなのかも知れない、と思えなくもない。
…というより、不謹慎ながら、むしろ現実の方が、ドラマよりずっとワクワクする。
あの、折目正しく実直な、聡明ではあるけれど決して器用そうには見えない、つまり物語のヒーロー像には程遠かった斎藤元彦氏が、敵方やメディアから悍ましい妨害を受けながらも困難な仕事に挑み続ける姿に、日本全国多くの有権者が、カタルシスを感じるのである。
共感できる登場人物はいなかったが、反社のボスを演じた役者がオーラを放っていた。
若き日の柳葉敏郎似のキム・ムヨル。端正な風貌にマグマのような怒りの感情を秘めた役どころがハマっていて、強く印象に残る。
高島屋SC館 11. 28