映画「私は白鳥」
「心の隙間が、どういうわけか白鳥の形をしていて。私は人間の形をしているが、自分は白鳥だと思っている。」
主人公の、この言葉がすべてを語っている。
生き物に寄せる無垢の思い。厳しい自然の摂理に人間が介入していいのか、という葛藤も。
翼が傷ついて渡りができなくなったオオハクチョウに、心を寄せる澤江弘一氏と、ひとりの人間と生き物の関わりを4年間撮り続けたテレビクルーの真正のありようにがつんと心を掴まれた。
自らの孤独も、失敗も、体裁の悪さも、言い繕わずに語る言葉に好感が持てる。ドラマ仕立てに作ろうとせず、ありのままを追うカメラも良い。
「飛べなくなっても、命を楽しんでほしい。」 「生きていれば、それだけでもうけもの。」
現実は映画のように都合の良いハッピーエンドを用意してはくれない。
「生きていくのはたいへんだ。」
どんなに大変な命でも(人生でも)明日への続きを生きねばならない。石崎ひゅーいの歌う「スワンソング」が流れるエンドロールを眺めながら、そんなやるせなさを、観客も引き受けるのだと思う。
珠玉のドキュメンタリーである。
渋谷・ユーロスペース 12月3日