2024年高校生物教師が読んだ本ベスト5
2024年高校生物教師である私が読んだ本の中でベスト5をまとめてみます。お勧めしたい本というより、あくまでも自分自身がベストと感じた本であるのでご了承を。ただ、どの本も得られるものはかなりあります。
以前から本は直接手に取って書店で買うより、アマゾンなどで注文する方が多くなり、さらに電子書籍で買う方が多くなっています。また、Kindle Unlimitedとdマガジンという 定額読み放題にサービスに加入しているので、買うという感覚もなくなっています。
2024年のベスト5を選ぶ段になって、読んだ本があまり多く思い浮かばない!
かなりの冊数を読んだつもりではいましたが、頭に残っていないということなのでしょうか。これは読み放題サービスが影響しているのかなと思っています。1冊を全部読むのではなく、必要な個所だけを読んだり、流し読みしているものが多いからでしょう。
ベスト5は次のようになりました。
1 サイレント・アース 昆虫たちの「沈黙の春」
2 クワガタムシが語る生物多様性
3 ポケット図鑑 新日本の昆虫1900(1)(2)
4 学力喪失ー認知科学による回復への道筋(岩波新書)
5 ピラミッド 最新科学で古代遺跡の謎を解く(新潮文庫)
1 サイレント・アース 昆虫たちの「沈黙の春」
著者:デイヴ・グールソン 出版社:NHK出版 定価:2,750円
この本は、このnoteでも何度か引用しました。「沈黙の春」は、レイチェル・カーソンが1962年に出版した本からきています。この本は、DDTなどの殺虫剤や農薬などの化学物質が自然界に与える危険性をいち早く訴えたものです。危険性のある化学物質によって、鳥のさえずりが聞こえなくなることを「沈黙の春」と表現しています。
著者のグルーソンは、世界で起こっている昆虫の激減を、カーソンの『沈黙の春』になぞらえて『昆虫たちの「沈黙の春」』という書名にしました。
『昆虫たちの「沈黙の春』では、世界各地の昆虫の激減の現状から、その原因、対策まで記載されています。著者がいる英国の話が中心になっていますが、昆虫愛なども感じられ、世界的な視点が広がり関心のある人にお勧めの本です。
2 クワガタムシが語る生物多様性
著者:五箇公一 出版社:集英社クリエイティブe単行本 定価:電子書籍 1,430円
この本はnoteでも紹介しました。生物物多様性について講演依頼があり、わかりやすい本を探していた際に出会った本です。
総論と各論からなっており、総論はとてもわかりやすいです。高校の授業で生物多様性を扱う際に引用させてもらおうかなと思う点が何か所もあります。各論中に「クワガタムシが語る生物多様性」という章があり、書名にもなっており、国立環境研究所の研究者である著者が「私の研究の四方山話」として語っています。外来クワガタムシ輸入解禁、ヒラタクワガタの雑種とその問題点、外来生物法、東南アジアの熱帯林での乱獲の話など、体験的な話を主に展開していて生物多様性に関する重要なことがすっと頭に入ってきます。この章以外も興味深い内容が満載です。
3 ポケット図鑑 新日本の昆虫1900(1)(2)
著者:槐 真史 出版社:文一総合出版 定価:2冊で3,520円
この本もnoteで紹介しました。フィールドで使っている『ポケット図鑑 日本の昆虫1400(1)(2)』をリニューアルして、同じページ数ながら種数を1900にしました。昆虫図鑑を買うならこの本をと、知り合いに進めています。似ていて区別しにくい種には、区別点を写真や図で示してより実用的になっています。ただ、少し写真が小さくなってしまった種もあり、『1400』も一緒に使っています。
4 学力喪失ー認知科学による回復への道筋(岩波新書)
著者:今井むつみ 出版社:岩波書店 定価:1,276円
県の高校生物教員の研修会で話をする依頼を受け、高校現場に導入された観点別評価について話をしました。その際に、情報を集め、勉強をした際に出会った本です。
著者は、慶応大学環境情報学部の認知科学者で、『言語の本質ーことばはどう生まれ、進化したか』が新書大賞をとったことで知っている方も多いのではないでしょうか。
『学力喪失』では、子供たちがどこで学習につまずくか、その原因を明らかするツール(「たつじんテスト」)を開発し、その結果の分析から対策を提案しています。数学の文章題に苦戦するのは、数学ができないからではなく、文章の意味を理解していないとか、分数や割合の意味がわからないまま、中学高校に進学し、そこでつまずいてしまうとか。思い当たることもありますが、高校現場に身を置く私には厳しい現実をつきつけられた感じです。
遊びなどを通して学んだことを生かす場面を作る、答えを効率的に教えるのではなく、子どもたちが探究を通して獲得していく。
対策の中には、20年以上前、高校で「総合的な学習」が導入された際に言われていたことが多くあります。高校現場ではうまく「総合的な学習」が定着しなかったのは、本書のようなエビデンスをもとにした理論が不足し、教員も目先で手いっぱいで学ぶ機会がなかったためだと思われます。観点別評価の導入で、定期テストから実験観察や発表がより重視されるのは好意的に見ていますが、教師が評価にエネルギーを費やさなければならないのはどうかなと思っています。
5 ピラミッド 最新科学で古代遺跡の謎を解く(新潮文庫)
著者:河江 肖剰 出版社:新潮社 定価
著者の河江氏は、you tube で古代エジプトについて専門的な内容をわかりやすく語る古代エジプト考古学の研究者。何よりもご自身の調査研究をもとにして解説しているので説得力があり、いくつもの動画を見ました。何か書物を書いていないかと思って探したのが本書です。
カイロ郊外のギザにある三大ピラミッドを中心に、どのようにつくったのか、なぜつくったのか、だれがつくったのか、考古学者の姿を追いながら真実に迫っていきます。現地での発掘や測量は仮説を実証するための地道な作業です。生態学調査などに通じる点もあり、読んでいてわくわくします。解明されていない謎がまだまだあることもわかり、一般の人むけの本であると同時に若い研究者をいざなう本です。
今は、情報が多すぎて、逆に心に残ることが少ないような気がします。ベスト5をまとめるにあたって、今年読んだ本の名前がすぐに思い浮かばないのはショックでした。
2025年は、読書する機会をもっと作っていこうと思います。読書は単に情報を得るだけでなく、考える時間を産みます。映像や音響など余計な情報がない分、イマジネーションが膨らみ考られるようです。今井さんの本にあったように知った知識を活用することも大切。だから人前で話す目的で読んだ本の場合は、その内容を覚えているのでしょう。