ノーブレス・オブリージュ
私は自分でいうのもナンだが、いわゆる高学歴の部類に入る。
出身は田舎で、通える範囲に大学は一つもなかった。地元が大好きだったものの勉強は好きだったので大学には行ってみたい。どうせ一人暮らしをしなければならないなら大都会の大学で思う存分勉強をしてやろうと高校時代、東京のとある大学を目指して猛勉強した。そこに行くだけの学力と気力を身につけるために、多くの先生方や家族、友人の助けを借りた。
ミミズの書かれたホワイトボードの記憶
高校の恩師の一人から教わった言葉が「ノーブレス・オブリージュnoblesse oblige」。フランスのことわざで貴族たるもの身分にふさわしい振る舞いをしなければならぬという意味だ。
大学全入時代と言われる昨今ですら、私の地元では大学に行くこと自体が珍しく経済的な事情で進学を諦める友人も多くいた。そんな環境で大学進学を目指す私たちに向かって恩師はこう言った。
君たちは大学を目指せる、思う存分に学問をできる恵まれた環境にある。そのことを決して忘れるな。
ノーブレス・オブリージュ。
都会に出てこれから学ぶことをどんな形でも良い、社会に還元してほしい。学びに没頭できる有り難さと喜びを忘れるな。
その恩師の数学の授業はチンプンカンプンだったけれど、この言葉だけは私の頭に強く刻みつけられた。
私は今、うつ病という病いになり、人間の痛みや生きづらさを身をもって知ることができている。これまでに得た知恵と今のーーある意味では貴重なーー経験を、何とかして社会に還元することが私の使命であると思う。恩師は今どこにいるのか分からないけれど、彼の言葉は私の生きるモチベーションになっている。私も誰かの生きるモチベーションとなるような言葉を送れる人になりたい。
井の中の蛙大海を知らず
一方、都会の大学で出会った人々には倫理観や価値観がおかしい人がわんさかいた。会社も同様だ。信じられないひどい言葉を吐く人が世の中にはたくさんいる。学歴は高くても人間的に全く尊敬できない人が多くいるのは非常に残念なことだ(素敵な人にもたくさん出会えたけれど)。
彼らは自分がいかに恵まれた環境で生きているかをわかっていない。自分は賢くて偉くて正しいと思って、他人を見下す。多くの人に支えられて生きていることを知らず威張っている様はまるで裸の王様のようだ。
それだけの知力を培ってきたのなら、他人を見下すのではなく弱者の痛みに寄り添い救うことに心血を注いでほしいのに。
私はこれまで出会った全ての人々とのご縁を無駄にせずに、これから先の人生を歩んでいきたい。良い出会いも悪い出会いも全てがご縁だ。全てが学びだ。全てを人生の糧にし、柔軟な頭で世の中をほんの少しでも良くする圧力をかけていきたい。
それが恩師に対する恩返しであり、社会への恩送りである。