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瓶詰めお月さま通信〔晩冬〕


ぬすびとに 取り残されし 窓の月

良寛


瓶詰めお月さま通信(晩冬)です。


夜分、しんと静まり返った冬の道を自転車で走っていると、にわかに背後から眩ゆいひかりに照らされたので、見上げてみるとそれは雲間から顔を出した満月なのでした。冬ももうじきにおわりますね。

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先日、従姉から知り合いのこどもたちに絵本をプレゼントしたいのだけど、なにかおすすめがあるかしら?と聞かれて胸が躍った、絵本のことを思うといつも晴れやかな気持ちになる。こどもたちは3人、6歳から12歳、もう一人でいろいろ読める年頃なので、では何がいいだろうかとたのしい気持ちで、しばし絵本の世界をねり歩いた。絵本らの国を歩いていると、ときおりふしぎで魔術めいた本に出会うことがある、それはあまり人目につかないようなひっそりとしたところにあり、ふとしたときに予期せず、こちらに向かってぴかぴかと輝き出すのだった。今回は自分が出会ったそのいくつかの絵本たちをここに呼んでみたい、しかしどうだろう、彼らは素直に魅せてくれるだろうか?なぜなら、いつでもふしぎというものは表立ってはこないものだからーーー。



おつきさまをぬすむ

『ムッシュ・ムニエルとおつきさま』

作 佐々木マキ

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絵本館

一冊目『ムッシュ・ムニエルとおつきさま』

図書館で働いていたころ、本を返しにきたこどもたちから返却本を受け取ると、ときたま顔を合わせる絵本があった。それは他の絵本の顔ぶれのなかでは幾分か変わった風貌をしており、ぼんやりとあやしげなひかりをはなっていた。
ムッシュ・ムニエルという謎の魔術師は、本棚にすっぽりと収まってもなお、好奇心の虜であるこどもたちに囁きかけるようなのだ。そうしてムッシュ・ムニエルは何冊もの健全な絵本に混じって、たくさんのこどもたちのもとへと出かけて行き、また何食わぬ顔をして戻ってくるのだった、いったいその子らとムッシュ・ムニエル氏とのあいだではどんな会話がなされたのだろう…?それはふたりの秘密で、わたしたちには知るべくもない………。



たいようの住むところ

『たいようのきゅうでん』

作・絵 三輪滋

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復刊ドットコム

二冊目『たいようのきゅうでん』

道に迷った旅人が辿り着いたのは、太陽の宮殿でしたーーー。
この絵本を見かけたとき、これはただごとではないと思った、いったいどんな物語が待っているのか見当もつかない。ただとくべつな絵本だということはぼんやりとわかる。それで表紙を開いてみると、そこにははつらつとしたたいようがいて、旅人のわたしたちを出迎えてくれるのだった。
太陽の宮殿に住むたいようは、みているだけで元気をくれる顔をしていて、そのたいようのことを、わたしたちは一瞬にしてすきになってしまう。


とびらをひらく

『お友だちのほしかったルピナスさん』

文・絵 ビネッテ・シュレーダー

訳 矢川澄子

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岩波書店

三冊目『お友だちのほしかったルピナスさん』

ページを開いたその時から、私たちがいま居る場所とルピナスさんたちの住む場所の境は淡くなる、ただしそこは決してただの御伽の国ではなく、ビネッテ・シュレーダーが敷いた地続きの道の先にある場所で、私たちはその道を歩いていく。しばらく歩いていくと、ルピナスさんと大きな鳥のロベルトがいるのがみえてくる。そこへ風変わりなハンプティ・ダンプティとパタコトン氏が現れると、思いがけない冒険が始まるのだった…。
冒険のあと、ページを閉じると共にシュレーダーの敷いた地続きの道を歩いて家路に着くと、あなたはふと、身体のおくのほう、手ではどうにも触れられないところがすっかり安らいでいることに気づくかもしれない。




みたまが宿り

『この世でいちばんすばらしい馬』

絵・作 チェン・ジャンホン

訳 平岡敦

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徳間書店

最後は『この世でいちばんすばらしい馬』です。

ハン・ガンは貧しい少年だった。貧しい少年は絵心に優れていたが、両親を助けるためにはやくから働きに出ていた。ある時みた駿馬に心を奪われたハン・ガンは、その馬を生き写すごとく絵を描き始める。ハン・ガンは運良く、その才能を見抜いた画家の援助を受けることになり、めきめきと頭角をあらわす。そしてその優れた絵は皇帝の耳にまで届くようになった。宮廷絵師になるために学ぶよう進言を受けたハン・ガンは学校に入ったが、彼は周りのいうことも聞かずに、一心に馬の絵だけを描き続けるのだった。やがてハン・ガンの描いた馬にはみたまが宿り、絵から飛び出す、という不思議な話がにわかにささやかれはじめるーーーー。




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おわりに


今や本屋さんでも図書館でも、児童書の棚には実にたくさんの絵本がみられる。絵本にはさまざまな顔ぶれがあり、ひとつひとつをみてゆくにはとても時間がかかるけれど、もしそういったところへ行ったなら、ゆっくり慎重に歩いてみてほしい。あなただけに一瞬、ぴかっとひかる一冊があるかもしれない。その輝きは場合によってはあなたを助け、時にはたのしくもさせるだろう、ちいさなひとにもおおきなひとにも、どんな境遇にあるひとにも、必ずや(ふしぎ)は訪れるものなのだ。



お月さんのお酒970円。

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