和風と洋風のあいだ
ある日のお昼どきのことである。
その日も原稿を書いていて、締め切りが近かった。外食する気にもなれないし、そんな時間もない。家にあるもので済ませようと、冷蔵庫を開けた。
見事に、なにもなかった。
正確には、お昼ごはんになりそうなものが、なにもなかった。冷蔵庫に入っていたのは、お酒のアテと炭酸水。それと、調味料がいくつか。
仕方がないと、ため息をつきながら、今度は冷蔵庫のとなりの食糧庫をのぞいた。常温で保存できる食べ物を入れてある棚である。
ここにもやはり、酒のアテになりそうなものしかなかった。我ながら、なんというか……。
どうしようかな、と思ったとき、ふと缶詰が目に留まった。
オイルサーディンだった。
やっぱり、酒のアテじゃないかと思ったが、待てよ……。これで丼をつくったという話を、どこかで見たような気がする。
よくよく思い出してみると、それはとある女性作家のエッセイに登場した「オイルサーディン丼」であった。たしか、オイルサーディンと醤油でつくるものだったはず。
そう思ったら、食べてみたくなった。1合分だけ急いでお米をとぎ、水に浸す。ごはんが炊き上がるまで30分くらいかかるが、その間も原稿を書き進めればいい。
案の定、原稿を書いていたら、30分はすぐに過ぎた。炊飯器からごはんが炊けるいい匂いがしたかと思うと、スイッチが「カチッ」と炊飯から保温に切り替わった。
「よし、っと」
ごはんが炊きあがったのを見届けてから、オイルサーディンのふたを開け、フライパンに缶汁ごと入れて温める。熱くなったら、そこに醤油を回しかける。
ジュワ~ッと音がして、醤油が焦げるいい香りがする。
冷めないようにフライパンにふたをして、丼にごはんを盛る。そのごはんの上に、醤油味になったオイルサーディンを汁ごとのせる。仕上げに海苔をちぎったものと、七味唐辛子をたっぷりかける。
「できた!」
たしか、あの女性作家のエッセイには「アツアツをかきこむべし」と書いてあったと記憶している。そそくさと食卓へ運ぶと、早速、アツアツをかきこんだ。
「んめぇ~!!」
オイルサーディンのオイルと醤油が一体になったタレが、炊き立てのごはんにからんで、なんともいえずおいしい。海苔の香りと七味唐辛子の辛さも、いいアクセントになっている。
「は~!うまかった~」
あっという間にたいらげて、ふと思った。
そういえば私、あのオイルサーディンをつまみにワインを飲もうと思っていたはず……。
でも、丼のごはんも、醬油も、海苔も、七味唐辛子も、みんな和風だったな。オイルサーディンは洋風なのに。
あ、そうか。和風とか洋風とか、こだわらなければいいんだ。こだわらないでつくれば、もっとおいしいものが食べられるんだな。
和風のものを、洋風に。洋風のものを、和風に。
原稿を書き終えたら、なにかつくってみよう。