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とりわけおいしいビールを飲むために
「ぷは~っ!」
居酒屋のカウンターで最初の1杯を飲みながら、私はふと、思った。
忙しくしている方が、いろいろはかどるなぁ。
コロナ禍でそれを忘れていたのかもしれない。
コロナ禍では先が見えなかったし、仕事が減って時間があり余っていたから、それほど急ぐ必要はなかったように思う。コロナ禍の3年間で、急がないというクセがついてしまったのかもしれない。
コロナ禍から元へ戻っていなかったのは、私の方だったのかもしれない。
だから、仕事も戻って来なかったんじゃないか?
3か月ほど前の私は、それに気がついて、とりあえず自分の仕事の仕方をコロナ禍前のように戻すことにした。
まずは、仕事のスピードである。
原稿の締め切りがそれほど迫っていなくとも、できるだけ早く原稿を書く。できるだけ速くタイピングする。
やってみたら、その感覚を思い出した。
次に、いろんなことを決めるとき、時間をかけすぎない。
迷ったら、一旦は保留にして、別のことをやる。別のことをやって少し時間を置くと、何を迷っていたんだろうと思うくらい、すんなりと決断できる。
そうやって、いろんなことをサクサク進めた。
仕事をサクサク進めると、その勢いに乗って、他のこともサクサク進んだ。めんどくさいと思ってやっていなかった家の中のあれこれも、あっという間に済ませることができた。
やってみると、たいしてめんどくさくなかった。
めんどくさいと思ってやるべきことをためていたときには、心の中で「ホントは、やらなきゃいけないんだよなぁ……」と思っていたから、きっと無意識にストレスもたまっていたのだと思う。
サクサク進めてやるべきことを終わらせると、心までスッキリした。
そうして、スッキリした気持ちで次のやるべきことに臨むことができた。すると、心に引っかかっていることがないせいか、次のやるべきこともサクサク進んだ。
いろんなことがサクサク進むので、心にも時間にも余裕ができた。
それで、ビールを飲みに来た、というわけである。
以前は、イヤなことがあったり、ストレスがたまったりすると「飲みに行きたい!」と思っていたような気がする。だけどその日は、スッキリした気持ちで「あ~、ビールが飲みたい!」と思ったのであった。
そのおかげか、その日のビールはとりわけおいしかった。
なんだ、これでよかったのか、と思った。
それまでの私は、いろんなことをコロナ禍のせいにしてきた。
仕事が減ったままで戻ってこないことも、理由もわからずむしゃくしゃすることも、いろんなことにやる気が起きないことも。
けれどもそれらは、コロナ禍のせいではなかった。
全ては、自分のせいだった。
現状を変えたいのなら、まずは自分が変わらなくてはならない。
よく言われることだけれど、それは本当だった。
まずは自分が、前を向く。コロナ禍は、もう、過去の話だ。
後ろを見ないで、前を向く。
車だって、バックギアに入れれば後ろへ進むのだ。ドライブギアに入れ直せば、前へ進む。タイヤが前に進み始める。
私も前を向いて、今やるべきことをやる。
そうすればまた、とりわけおいしいビールが待っている。