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マンマミーヤ!イタリア人の美しき人生

久しぶりにイタリアに長く滞在しイタリア国内を転々と放浪した。

イタリアへは仕事で年に4回から多い時では6回訪れている生活を6年くらい続けているのでもう来伊は何度目になるだろうか。こんな生活を続けていると否が応でもイタリアの文化、イタリア人の気質が僕の中に小さく芽吹いてくる。

時折日本でも別れの時に「チャオ!」とか言ってしまい物凄くはずかしくなる時もあるくらい僕の中にイタリアがどんどん侵食していく。

未だに「チャオ」と「グラッツェ」以外のイタリア語を覚えようとしない自分には嫌になるが、それでもその2つがあればまかり通ってしまうのがこのイタリアの愛すべき部分なのだ!と少しだけ言い訳させてもらおう。今日はそんな愛すべきイタリアの内側を少し覗いてみよと思う。

僕は仕事で頻繁に訪れるようになるまで正直イタリアにはたいした興味がなかった。イタリアに頻繁に行くようになる以前にも旅行フィレンツェとベニスにで訪れた事があったが、楽しい観光地!くらいにしか感じていなかった。

確かにローマ時代の吐息が聞こえるような荘厳な街並みは美しいけど、根付く文化もクラシックなものばかりが盛んでエッジの効いた目新しいものが少ない。

それに比べロンドンやパリ、ニューヨークそれに東京なんかは、若者文化というものがそれなりに力を持っていて、次々と新しい文化やトレンドが生まれやすい。それに比べて変化を好まないイタリアでは音楽やアート、ファッションの世界でも前衛的なアイデアやアーティストが生まれづらいクラッシクな社会背景がある。良く言えば古き良きものを引き継ぐ意識が高いのだが、悪く言えばとても保守的な国であるとも言える。それは彼らの私生活を覗いて見てもなるほどと納得する事が多い。

当たり前のように聞こえるかもしれないけれどイタリア人は基本的にイタリアンばかり食べている。朝夕晩、そして週7日間イタリアン、イタリアンそしてイタリアン。イタリアの滞在が1週間も続くと初めは日本では食べた事のないような感動するイタリアンの味にもだんだんと慣れ飽きてくる。

僕ら日本人は和食も食べれば、イタリアンも食べるし、フレンチだって、アメリカンフードだって、中華だって、それにインドや東南アジア料理と非常にバラエティに富んだもの日々口にしている。

そんなイタリアンな食事ばかり続けていると、日本は世界的にも稀なバラエティに富んだ豊かな食生活を送っているのだなと実感する。もちろん都会に行けば日本料理だってフレンチだってあるのだけど、食べるのは稀で基本的に外食でもイタリアンを食すことが殆どだ。

そして仕事面でもクラシックと言える面が強く残る。

特に田舎の方に行くと、自分の親の仕事を引き継いで仕事をしている人がとても多い。日本では伝統文化を引き継ぐ若者がいないと問題になっているが、イタリアではあたりまのように親から子へ事業を譲渡し、何代にも渡ってその技術や伝統を引き継いでいく。

僕が従事するファッション業界でもファミリーでブランドを運営していたり、縫製工場を運営していたり、昔から生地だけを、銀細工だけの会社を親のまた親のそのまた親の世代から引き継いでいたりする事がとても多い。

そしてイタリア人の名前も然り。これは僕ら日本人には奇妙にさえ感じる事かもしれない。例えば100人くらいの集団がいて、「マルコ!」って呼びかけるとおそらく10人くらいのマルコが出てくる。「フランチェスコ!」って呼ぶとまた10人は出てくると思う。他にも「ルカ」とか「マテオ」とかも同様に6-7人出てくるはずだ。

女性の名前でも「ジュリア」とか「フランチェスカ」とか「ラウラ」とか同じように100人くらいの集団で名前が被っている者どおしが多数いて、「私のこと呼んだ~?」と5人のジュリアが現れ困惑する。「可愛いジュリアだよ!」と言っても恐らく3人は出てくるだろう。困ったものだ。

とりわけめんどくさいのが職場で、同じオフィス内に絶対に名前が被っている人たちが複数いて、「フランチェスコに電話通して。」とか言っても別のフランチェスコが出てくる可能性が非常に高い。だから毎度どこのフランチェスコとか何をしているジュリアとか付けなきゃいけない。仲良くなれば相性でフランキーとかジュリーとか呼んだりすることができるのだが、会ったばかりではそうもいかないから困ることが多い。

これはイタリアの主宗教であるキリスト教のバイブルに出てくる人の名前だったり、聖人の名前からだったりに由来している。日本ではクラスに自分の名前と被っている事なんてせいぜい�一人いれば多い方だろう。

同じ物を食べ、同じ仕事をして、同じ名前で呼んで。食事、仕事、名前の3つの側面だけ見ても分かるようにイタリアってかなりクラシックなお国柄なのだと納得する。

しかしながら若い頃に観光で訪れた際にはそんなクラシックな文化を退屈と感じてしまってはいたが、彼らと長年仕事や遊びをともにしていると次第に、そんなクラシック、またシンプルと言ってもいい生き方だからこそ生まれる内面的豊かさがあると気がついた。いつも陽気で人生を楽しもうとする彼らの姿は根暗な日本人の僕からすると羨ましく感じてしまうくらいだ。

クラシックなライフスタイルだからこそ、あの底抜けに陽気で情熱に満ちたキャラクターが育まれているのではないだろうか。それはもちろん南欧の眩しい太陽の光と芳醇な栄養を含んだ土地で育った豊かな食物のせいもあるだろう。でもそれだけではない気がする。その豊かな心はどこで育まれているのだろうか。もう少しだけイタリアを探ってみる事にしよう。

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今回の旅ではイタリア国内を南へ北へ、東へ西へと数カ所渡り歩いた。

フィレンツェ → エンポリ → ボローニャ →フォルリ→ボローニャ→ミラノ→一瞬パリを挟んで→またイタリアのチビタノーバへ。

僕の輸入卸の仕事ではイタリアやフランス、たまにイギリスそれにアメリカのブランドなんかと仕事をする事が多く、ミーティングや展示会なので定期的にそれぞれの国に訪れる。フランスではパリ、イギリスではロンドン、アメリカだとニューヨークかLAなどの都心に行けば取引先であるファッションブランドのオフィスがあるので用事は大体事足りる。しかしイタリアだけは全く持って別ものなのだ。

イタリアのファッションブランドの多くは地元の土地で会社を運営していて、その土地から離れようとしない。だから僕は用事がある度にイタリア国内を奔走しなければならない。日本で例えるなら、あるファッションブランドの本拠地が岐阜県だったり、鳥取県だったり、はたまた岩手県だったりにあったりするのだ。

日本人の僕らからするとファッションというのは一般的に一番流行に敏感な都会に触れていなければいけないという感覚があるが、それを大きく覆し、多くのイタリア人デザイナー達は愛する自分の土地でクリエイション活動を行っている。

それは各地に素晴らしい縫製加工工場が点在し、その工場の近くで工場と密なコミュニケーションをとりながらクリエイション活動を二人三脚で行っている事も理由に挙げられる。でもそれ以上に彼らは地元を愛し、地元に還元しようという意識が非常に高い気がしてならない。日本のデザイナー達が今、”MADE IN JAPAN”にこだわるように、イタリア人達は昔から” MADE IN 俺の地元!”にこだわっているのだ。

彼らとのミーティングで地方に訪れると「これが俺の地元のワインだ!飲め!」とか「俺の地元で採れたオリーブオイルだ!舐めろ!」とか「ここは俺の地元で一番美味しいレストランだ!食え!」とか必ず地元の名産品を勧められる。そして初めて訪れる場合だとだいたい地元で一番景色の良い場所だとかその土地の歴史的な建物がある場所とかに連れて行かれる。まるで自分が地元の観光大使のように。この情熱的な地元アピールは是非日本に輸入したいと思うほど、皆んなとても上手なプレゼンテーションをするのである。

イタリアの各地が世界的な観光地として世界中から観光客を招けているのはきっと、各人のこの地元アピールの上手さが根底にあるのだと認めざるえない。日本では政府がオリンピックに向けて観光立国を目指す!とか言っているけど、どこか表層的で決して上手くいってるようには思えない。

きっとその答えは全国各地にアメーバのように増殖するゆるキャラでもないし、勘違いをしたクールジャパンでもないし、きっとオモテナシなんかじゃ絶対ない。きっと一番大事なのはまずは自国民が自分の国を、自分の街を心から愛し、この土地の魅力が何だか理解しているのだと彼らの姿を見て思う。


このようにイタリア人達は本当に自分の地元が大好きだ。でもこのイタリア人達の「地元大好き!」の更に根底には何かもっと深い大事なものがある気がしてならない。

今回、旅の途中から一人のお母さんデザイナーと工場を巡る事になった。デザイナーの彼女が僕らと工場を巡り製品お仕上がりをチェックするのは当然のことだが、その旅の運転手にそのお母さんデザイナーの旦那が運転手として名乗り出たのだった。彼は全くファッションとは関係無い金融関係の仕事をしているのにも関わらず、仕事のスケジュールを調整して旅に同行をし妻をそっと傍で見守る。旅の道中もデザイナーである奥さんを常に優しく気遣い、側から見ていてもその愛の深さを感じずにはいられない。

「お腹空いたかい?」「喉は渇いてないかい?」

運転中も助手席に座る彼女の方を時折振り向き声をかける。おそらく結婚して30年以上は経っているだろうにこうまでして麗しき男女の関係が長く続いている二人の姿に僕は驚きを隠せなかった。それに二人の間には僕と同じ年くらいの息子がいて、その息子も道中に何度もお母さんを気遣って電話をかけてくるのだ。

「お母さん大丈夫?順調に進んでる?」「いつ頃帰ってくるの?」「無理しないでね。」

電話越しからそんな様子が伺える。息子もお母さんどんだけ好きなの!と僕はまたしても驚いた。それはまるで一人の女性を巡って二人の男性がアプローチをかけているかのような愛の嵐だ。旦那からと息子から。お母さんはなんて幸せなのだろうと思わずにはいられない状況が旅の道中度々繰り返され続けたのだった。

でもこの「母ちゃん大好き!」っていうものはイタリアでは決して特別な事ではなく、至極当たり前の事なのかもしれない。

イタリア語の「マンマミーヤ!!」という有名な言葉にも彼らのメンタリティーが表れている。これはイタリア語で直訳すると「俺の母ちゃん!!」って嘆きになる。英語では「オーマイゴット!」と表現するが、イタリアでは代わりに「俺の母ちゃん!」なのだ。

ゲームのマリオカートでもマリオがクラッシュすると「母ちゃん!!」と嘆いているくらい頻繁にイタリア人はこの言葉を使う。この言葉からも分かるようにイタリア人にとって母ちゃんという存在は人生においてとてつもなく大きい存在なのである。そしてイタリア人はすべからずマザコンと言っても間違いはない。

本当に周りのイタリア人の友達は母ちゃんによく電話するし、母ちゃんに会いに行く。それに誕生日には必ずお祝いをしてあげて。お前どんだけ好きよ!って思うほど母ちゃんを愛しているのだ。僕ら日本人からすると少し小っ恥ずかしく感じてしまう母親への愛を堂々と表現するので僕もそれを見てはもう少し母親には優しくしなくてはなぁと思うばかりだ。

側からイタリア人達の母親を大事にしている姿を見ると母親への愛を中心として家庭関係さえ構築されている気がする。一家を支える大黒柱としての父親像といのはもちろん存在するのだけど、家庭内だけは母ちゃんが一番可愛くて一番愛すべき存在なのだ。

多分それがイタリア人にとって一番美しい思う家庭像なのだろう。昭和の日本が父親を中心とする家庭が美しい家庭像だったように。だからこそそんな中心にいる母ちゃんはどれだけ歳をとってもキュートな存在で居られるのかもしれないなと、いつまでも可愛い女の子のようなデザイナーのお母さんを見ていて妙に納得した。

そんな可愛い母ちゃんを中心としてイタリア人達は自分のファミリーをとても愛し、その結束はとてつもなく固い。映画「ゴッドファーザー」でも「家族を大事にしない奴は男じゃない。」とボスが呟くように人生においてどんな事があっても家族を第一優先事項に置いているのだと思う。

きっと仕事なんかよりずっと大事だし、友達よりも当たり前に家族を優先するのだろう。家族との大切な時間を削ってまでダラダラと仕事をしたり、人目を気にして無駄に職場に残ったりは絶対しない。必ず夜はテーブルを囲んで家族と美味しい食事をしようと心がける。各人がそう心がけているからこそイタリア社会では仕事とプライベートとのライフバランスが優れていると評される。8月になればどの会社も夏休みで閉業して家族で一ヶ月近くホリデーに出かけるような家族を大切にする社会が構築されているのだ。

今回の旅でも夜になればデザイナーファミリーと、工場長と工場のスタッフのファミリーまで駆けつけ3つのファミリーで食卓を囲むという実にイタリアらしいディナーになった。

ビジネスの場に家族を出すなんて煩わしい!と日本人の僕らは思ってしまいがちだが、皆の笑顔溢れる心豊かな姿を見ていると決してそれは間違っ事ではないのだろうと思わずにはいられない。家族と言う土台の上に仕事があるのだと改めて考えさせられた。

イタリア人はルーズだとかよく言われるが僕はそこまで強くは思わない。確かに就業時間は日本に比べるとかなり短いかもしれないけれど、彼らの短い労働時間の間に仕事に集中する姿勢や、その短い労働時間の間に仕上げてしまう姿をみていると逆に時間を無駄に長々と仕事をする日本社会の効率の悪さに疑問すら持ってしまう。ひといえにその仕事への集中力だったり、仕事に対する熱い情熱だったりは “家族との時間” という人生において大切なものを理解しているからこそ生まれてくる力なのではないだろうか。

“母親を大切にする事” 

“家族との時間を大事にする事”

 “自分の生まれた土地を愛する事”

人生を豊かにする秘訣とは実はとってもシンプルで、それを理解しているからこそイタリア人達は変わらないクラッシクな部分を大事にしているのではないだろうか。いつも陽気なそんなキャラクターはそんな生活の中で育まれている気がする。

孤独を感じやすいと言われるこの大情報時代だからこそ、そんなクラッシクな事を守るライフスタイルが僕の目には美しく映るのかもしれない。当たり前過ぎるからこそ見えなくなってしまっていた人生の極意をイタリア人達から教えられた気がした。

(イタリア人ファミリーたちとのディナーにて)



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