(H54) 見えてきた世界の燃料電池戦略、BEVとFCVの課題と展望…トヨタ自動車 ZEVファクトリー 主幹 手嶋剛-1 (2020.7.27) by 中尾真二 より加筆抜粋しました。
⑴ 日本国内ではトヨタとホンダが燃料電池車両(FCV)の市販を開始している
トヨタは第2世代の『MIRAI』を2020年に発表予定。
その一方で、
インフラ整備コストやLCA(ライフサイクル環境評価)の面で、次世代電動化車両は、BEV(EV)を有力視する声も少なくない。
⑵ グローバルで先行する技術開発
---:トヨタの取組み状況は?
手嶋氏:2015年に発表した「環境チャレンジ2050」では、
2050年までに、2010年比でCO2排出量を90%下げる目標を掲げています。
2030年のマイルストーンとして、新車の50%を電動車両にします。
トヨタの電動化は、
1997年の初代プリウスからスタートしています。
そのHV技術をベースに、
PHV、FCV、EVへの展開ができることがトヨタの強みになっています。
このうち水素と酸素から電気を作り出す燃料電池技術は、以下の特徴があります。
①発電過程でCO2を全く出さない
②原料の水素は水の電気分解、ガス、石油、バイオマスなどさまざまな素材から作れる
③バッテリーと比較してエネルギー密度が高い
④長期保管が可能
2014年には、
初の市販燃料電池車両となるMIRAIを発表するなど、その技術もグローバルで先行しています。
⑶ FCVについては、競争領域より協調領域であると捉えている
トヨタは、
2万件以上の燃料電池や電動化に関する特許を2030年まで実施権を無償公開しています。
⑷ 災害時や商用車で高まるニーズ
---:トヨタとしての最近の取組みは?
手嶋氏:フランスのFCVタクシー会社、HYPEに対してMIRAIを600台提供する計画、2018年の北海道地震や2019年の千葉の大停電での電力供給にMIRAIやFCバス「SORA」の活用があります。
もうひとつは、
商用車への燃料電池ニーズの高まりを受けた動きです。
①日野自動車との共同開発のSORA
②FC技術を福田汽車、中国一汽といった中国企業への提供
③ポルトガルのバス会社との協業
海外では、船舶、鉄道、ドローンといった分野に、
燃料電池を搭載する動きがあります。
電動の有人ドローンなどでは、
航続距離を伸ばしたい場合、燃料電池のほうが有利です。
バッテリーで航続距離を伸ばそうとすると、重いバッテリーを増やす必要がありますが、
航空機では、FCのエネルギー密度の高さが有利に働きます。
今年トヨタが設立した中国新会社の名称は、
「連合燃料電池システム研究開発(北京)有限会社」。
主な業務内容は、
中国におけるクリーンなモビリティ社会に貢献する商用車用の燃料電池システムの開発。
トヨタのグローバルにおけるFCV戦略上、大きな意義を持っています。