(H61) 清華大学が最先端分野で世界一になった理由 野口悠紀雄「リープフロッグ」 (2020.1.1) by 文藝春秋degital より抜粋加筆しました。
⑴ 中国の躍進ぶりは、基礎研究の分野においても、
中国はいまや世界の最先端に躍り出ている
基礎研究分野における中国の躍進ぶりは、
いくつかの指標によって見ることができます。
まず、論文数。
日本の科学技術振興機構(JST)の最新の分析は、
中国が発表する質の高い論文の数と研究領域が激増していることを指摘しています。
ここで対象とされている領域は、
物理、化学、生命科学、コンピュータ、材料などの151領域です。
20年前には、中国が上位5位以内に入るのは2領域だけでした。
10年前に、103領域に急増。
2017年には、146領域に達しました。
そのうち、数学、工学、材料などの71領域では、
中国が首位となりました。
日本が5位以内となる領域は激減しています。
AIやブロックチェーンなどの最先端の分野では、
とくに中国の躍進ぶりが注目されます。
中国のAI論文数は激増しており、
上位10パーセント(引用された回数)に占める中国の比率が、2020年には米国に並ぶと予測されています。
日経新聞によれば、
ブロックチェーンに関する中国企業の特許出願数が、米国の3倍に達しました。
⑵ 『Times Higher Education(THE)』の2020年のアジアランキング
第1位:清華大学(世界23位)
第2位:北京大学(世界24 位)
第5位:東京大学(世界36位)
⑶ なぜこのような状況になるのか?
中国政府が基礎科学の研究を重視して支援しており、巨額の資金を投入しているからと説明されます。
確かに、そうした事情はあるでしょう。
しかし、それだけではないのでは。
これは、「リープフロッグ」が生じているのではないでしょうか?
つまり、伝統的な分野に縛られることなく、
最先端の分野に人材や資金を集中できるからではないでしょうか?
そして、それができるのは、
中国の大学では、伝統的な分野の力が強くないからだと思われます。
そうなったのは、
文化大革命によって、大学が破壊されたからです。
清華大学は、文化大革命で紅衛兵の拠点となり、
それまでの教授陣が一掃されてしまいました。
中国の高等教育と研究のシステムは、
ここで全面的に破壊され、伝統が引き継がれなくなってしまったのです。
いわば、焼け野原になってしまったわけです。
こうした状態のところに、
1980年代以降、能力のある若い研究者たちが米国に留学し、帰国してから、何もない所に新しい分野を築き上げていったのだと思われます。
※リープフロッグ:
既存の社会インフラが整備されていない新興国において、
新しいサービス等が先進国が歩んできた技術進展を飛び越えて一気に広まること
中国は、固定電話の普及を待たずに、携帯電話が急速に普及しました。