サーキュラーエコノミー実践 安居昭博
循環型社会って具体的にはどういう社会なのか、言葉の定義や具体的な実践例が満載の一冊。起業家ならずとも丁寧な暮らしを心がけたい誰しもにおすすめの一冊。
はじめに
もはや自分だけよければよい、自分の住んでいる地域だけよければよいという状況ではなくなっている。地球規模での気候変動、環境問題は世界の関心事である。それに加えて日本は課題先進国と言われるほど、少子高齢化による地方の過疎化、都市集中の問題、そしてCovid-19パンデミック。この2年間誰しもが将来を憂いたはずだ。
SDGsは2030年までに達成すべき17のゴールと169の具体的なターゲットを示したが、その解決手段は誰にでも明確なものではなかった。その一つのアプローチ手法こそがサーキュラー・エコノミーという経済モデルだ。本書はその概念から具体的な実践事例を網羅的に紹介し、また海外先進事例とともに日本の可能性を引き出した希望の教科書だ。
読書メモ
・サーキュラーエコノミーの土台となった「3つのP」
"Planet(地球環境)" "Profit(経済的利益)" "People(人々の幸福度)"この3つのバランスを保つことが、今求められている社会経済モデルであり、生活の在り方だ。
・サーキュラーエコノミーの設計図『バタフライダイアグラム』:「生態系サイクル」と「技術系サイクル」の両輪のアプローチ。その中には順序がある。リデュース>リペア>リユース>リサイクル
・RegenerativeとRethink
・Sustainable(持続可能な)< Regenerative(再生する)ビジネスモデルへ
・日本人のメンタリティ、美意識、ものづくりの力の再興
・"Learning by doing" (やりながら、学んでいく)
思考メモ
SDGsやサーキュラーエコノミーはそれ自体には共感できるものの米中経済大国に対抗するための欧州が作り上げた”集”の経済モデルだと考えていた。それ自体資本主義経済のマーケティングプランの一つではないかという意味でだ。今回本書で様々なオランダの事例を読み一概にそう穿ってみてはいけないと感じた。そしてアムステルダム市や黒川温泉(南小国町)、大崎町など行政単位でも真にサーキュラーエコノミーを後押しする動きを知れたことは率直に素晴らしいし、希望が持てる。
次にオランダという国にも興味を持った。お隣のドイツに足しげく通っていたこともあり欧州の中でも「多文化共生」「リベラル」な国家として認知していたが、そのダイバーシティの中に見える一貫した気質"Learning by doing"やデザインの感性には感心させられた。一方で、欧州では移民政策をめぐってメルケルが退陣したり、バルト三国が揺れていたりと過度なダイバーシティ&インクルージョンは常に社会の不安の種となっていることも事実であろう。オランダの国土面積は日本の約9分の1で、人口1700万人ほどであるが、移民受け入れによって人口増加傾向であり、それらがサーキュラーエコノミーの原動力である一方、物理的・心情的な限界もあるのではないか。その壁を越えて真にリジェネラティブに価値を置く国や社会が続いていくか今後に注目したい。
最後に日本でのサーキュラーエコノミーの取り組みにも興味をもった。まだそれらの多くが小さな行政単位や企業単位であるが、確実にその芽は出ている。出ているというより、近代化以前からそれは仕組み化されていて生活の一部であったものが、近代化・都市化によって分断されていたが、巡り巡ってまた復活してきたと思える。本書で紹介されている東京・三鷹の鴨志田農園の鴨志田さんの人柄や野菜、目指している世界観に魅せられて農園を訪れたり、様々な取り組みを見ているが、やはり循環型社会の出発点は「人」であり、「その人の持つ信念」であると感じる。それに周囲が動かされてだんだんとその輪が大きくなっていくものだと思う。もちろんそれを可能にする政策的な後押しは必要だと思うが、最初に「火」が必要だ。
おわりに
本書は内容以上に創造力を掻き立てられるものだと思う。読んで終わりではなく、読んで何をするか、最初の一歩を踏み出すことが大切であるが、間違いなくそこに「火」をつけてくれる一冊としておすすめしたい。
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