父から子に語るアヘン戦争

 最近、歴史に強い興味を示している上の子。先日はなかなか興味深い質問を飛ばしてきました。
「アヘン戦争の頃、イギリスが中国との貿易で銀が中国に出て行っちゃうんで、何か中国に売るものが必要だったのはわかったけど、なんでアヘンだったの?」
「うん、ちょっと考えてごらん。遠くの国と船を使って貿易をしようとする時に、たくさん儲かるのはどんな物かな。それはね、嵩が小さくて軽くて高価なものだよ。イギリスから中国まで船で運んでくる、またはインドで調達して中国に持ち込むんだから、よっぽど利益が大きくないと割に合わない。でもね、そういう儲かるものは、だいたい中国の方が生産地だったんだ。陶磁器もシルクもお茶も中国が産地、ということでイギリスが目を付けた贅沢品がアヘンというわけ。
「余談になるんだけど『イギリスは中国人をアヘン漬けにして弱体化させようとした』という話を見かけることがあるんだけど、僕はそれは違うんじゃないかな、と思っている。同時代の小説の主人公シャーロック・ホームズがコカインをやってたりするように、イギリスでも麻薬の使用は悪徳ではあっても重大な犯罪とは考えられてなかったみたいなんだ。
「ここから先は完全に僕の感想で、根拠のある話ではないんだけど、西洋と東アジアでは麻薬をタブーだと感じる感覚がだいぶ違うし、それは現在でも変わってないんじゃないかと思うんだ。東アジアの方が麻薬を悪だと考える度合いが強い。それもかなり。
「だからアヘン戦争っていうのはイギリスの侵略戦争なのは勿論なんだけど、文化摩擦の面がけっこうあったんじゃないかと思ったりしてるんだよ」
と、まあこんなことを答えたわけです。

 今にして思うと西洋の国がアジアやアフリカに売る商品としては武器もあったなと思います。刀剣、甲冑、銃器は大航海時代より前、地中海交易が西洋の交易の中心だった時代から、西洋側の主要な輸出品でした。でも中国についてはアヘン戦争に負けるまで、西洋に軍事力や武器の性能で劣っているという認識が中国側にどこまであったか、という気がします。
 産業革命以降のイギリスでは綿織物が安価に大量生産できるようになって、インドでは伝統的な綿織物が壊滅したりしてますが、中国に対しては貿易赤字を解消できるほど売り込むことはできなかったようです。

 さて、長々とした話を聞かせてしまった上の子ですが、その後「タイで麻薬を国外から持ち込もうとして逮捕された人が、死刑になるかもしれない」というニュースを見て、「この間の西洋とアジアで麻薬に対する意識が違うって話を思い出したよ」などと言いに来てくれたので、退屈で聞き流していた、なんてことはなかったようで良かったです。

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びぶ
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