名盤と人 第7回 JoniとJazz 「Shadows and Light」 ジョニ・ミッチェル
アナログの名盤を通して人と人との出会いと葛藤を書き連ねるシリーズ企画7回目。Joni MitchellがJazzの精鋭を迎えたLiveアルバム「Shadows and Light」。JoniとJazzとの関わりを突き詰めるとJaco Pastoriusに辿り着く。JoniとJacoとの最後のワークとなった「Shadows and Light」からJoniとJazzとの関係を読み解く。
Jacoが集めたJazzの精鋭によるLIVE
「Shadows and Light」はJoni Mitchellが1980年に発表したライブ・アルバム。1979年9月にカリフォルニア州のサンタ・バーバラ・ボウルで収録された音源が使用されている。
ミュージシャンは錚々たるジャズの精鋭が選ばれている。
Jaco Pastorius (Bass)
Pat Metheny (Guitar)
Lyle Mays (Acoustic Piano, Keyboards)
Michael Brecker (Tenor Saxophone)
Don Alias (Drums)
1979年にリリースされたチャーリー・ミンガスとのコラボ作品「Mingus」の流れのLIVEで、ジャズ色の強いメンバー選定になっている。
当初はWeather Reportをそのまま起用するのが彼女の狙いだったが断られ、その後の人選は当時の音楽パートナーJaco Pastoriusが行った。
「Don Juan's Reckless Daughter」「Mingus」から続くJaco Pastoriusとの共同作業だが、全2作が実験的な色合いであるため、JoniがJazzミュージシャンを従えて代表曲をLIVE演奏する、と言う本作はJoniとJazzと言うテーマを最もわかりやすく聴ける作品となっている。
前2作でWayne Shorter、Herbie Hancockなど大物Jazzミュージシャンとの共演を果たし、よりハードルの高いライブ演奏となるのがこの作品。
Jacoと共にバンドの主軸となるPat Methenyは1978年にPat Metheny Groupを始動させたばかりでまだ若干25歳。
ジャコとは古い友人で、1975年に発表した初リーダー作 「Bright Size Life」にはジャコが全面的に参加している。
Lyle MaysはPat Metheny Groupからの参加。メセニーとはその後も一貫してグループのメンバーとして30年以上行動を共にする。(2020年に逝去)
そしてメセニーの縁でブレッカーブラザーズのMichael Brecker。(当初はウェイン・ショーターを予定していた) ※2007年逝去
そしてジャコの古い友人でジョニの当時の恋人Don Aliasは「Black Market」や「ジャコ・パストリアスの肖像」にも参加していた。
音楽監督は当初Jacoだったが精神的な不調からメセニーが引き継いでおり、JoniとJaco Pastorius、Pat Methenyの3人によるコラボ作品と言っても良いだろう。
イントロに続き1975年の「夏草の誘い」(The Hissing of Summer Lawns)から「In France They Kiss on Main Street」で始まる。
フュージョン路線からジャズ期への移行期の傑作だ。
スタジオ盤ではJeff Baxterがギターだが、このLIVEではPat Methenyの透明感ある個性的なソロとJaco特有のベースサウンドにより、曲が生まれ変わっている。
そして、ジャコが初参加した1976年の「逃避行」(Hejira)よりジャズ期の代表曲「Coyote」。
レコードではラリー・カールトンだが、ここでもメセニーの光沢のあるギターが躍動。またパーカッショニストとしても有名なDon Aliasのコンガが効果的。そしてJoniの歌と対等にJacoのベースが唸りを上げる。
「Mingus」からの「Dry cleaner from des moines」では、Joniはギターを下ろしほぼジャズシンガーと化しJaco、Michael Brecker、Don Aliasのトリオをバックに堂々と歌い、そして後半にはJacoとBreckerの激しい絡みが展開される。
そして唯一ジャズ期の作品ではない「Court and Spark」から「Free man in Paris」。
Jacoがベースに入るだけで、レコードの様に洗練されず、音圧のあるベースを中心にタイトでうねる様な全く別の展開になっていて驚く。
過去に出したライブ盤「Miles of Aisles」でもフュージョン系のバックを起用したが、あくまで伴奏の域に過ぎず、Joniと演奏者が対等で奏でる緊張感溢れる演奏である。
残念ながらJoniとJacoのコラボはこの作品が最後となる。
また、JoniとPat Methenyとの共演もこれっきりである。
(しっかりとソロパートも用意されていた)
そして「Hejira」からの「Black cow」がレコードと違った迫力で凄い。
Jacoのベースの躍動感、Saxのソロ、とWeather Report顔負けのエレクトリックジャズをJoniも含むバンドとして一体となり展開する。
このLIVEを最後に1976年から始まったJoniとJacoの短い共同作業は、4年弱で終わりを告げるのである。
JaniとJacoの出会いは?
では2人はどのようにして出会ったのか?
レコード会社の意向なのか、ミュージシャンからの紹介なのか。
長らく素朴な疑問だった答えが以下の2人のインタビューにあった。
「天才、天才を知る」と言うか、20世紀最大のコラボレーションとも言える2人の出会いは、偶然Jacoの音を聴いたJoniの直感だった。
また、ドラマーやベースなどバックミュージシャン選びを人任せにせず、自分で選んでいるのがわかるエピソードだ。
そして別離からわずか7年後の1987年、悲劇によりJacoの生涯は終わりを告げる。
Jaco以後のJoniとJazz
Joniのジャズ期は当初はジャズ界から歓迎されたわけではない。
この作品でこれだけのメンバーと生演奏で対等に渡り合ったことで、ジャズ界からのリスペクトは大いに高まっただろう。
2007年にはHerbie HancockがJoniのカバーアルバム『リヴァー〜ジョニ・ミッチェルへのオマージュ(River: The Joni Letters)』を発表。
第50回グラミー賞で、最優秀アルバム賞を受賞し、ジャズのアルバムがグラミー賞最優秀アルバム賞を受賞するのは43年ぶりであった。
ハンコックはJoniの「Mingus」に参加して以来の仲。
ライブでの共演も多い。
Wayne Shorterも継続的にJoniの作品に参加しており、JoniとJAZZミュージシャンとの共演は当たり前のものになっている。
発売後の2008年、Herbie Hancock (Keys)、 Bob Sheppard (Sax) 、Marcus Miller (Bass) 、Lionel Loueke (Guitar) 、Vinnie Colaiuta (Drums)という錚々たるメンバーとの共演による「River」。
Jazz新世代では現代最高峰のジャズドラマー、Brian Bladeが1998年以来ジョニのパートナーとして信頼が厚い。
目下の最新作「Shine」( 2007年)まで継続参加している。
さらにBrian Bladeは2018年に開催されたジョニの75歳の誕生日を祝った『JONI 75~ジョニ・ミッチェル・バースデイ・セレブレーション』の音楽ディレクターも務めている。
そして、持ち味は違うがJoniの後継者とも言えるポジションのNorah Jonesのドラマーとしても「Come Away with Me」以来多くの作品に参加しており、今月の来日にも同行しているかもしれない。
フォークの世界からジャズに焦がれて探求してきたJoniだが、今やジャズに愛された女というべきかもしれない。
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