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この1枚 #1 『PRETZEL LOGIC』 STEELY DAN(1974)

PRETZEL LOGIC』は1974年にリリースされたSTEELY DANの3枚目のアルバム。今年になって、Donald Fagenの監修によるリマスター版がヴァイナルリイシューされましたが、その第3弾の本作を購入しました。
収録されたRikki Don’t Lose That Numberが4位と大ヒットし、アルバム・チャートで8位を記録、人気グループの仲間入りをし、またワークショップ形式なる方法論を取り入れた最初の作品でもあります。
リマスターされくぐもった音が一掃され、楽器の分離が進化し、各演奏者の技量が満喫できます。

PRETZEL LOGIC

結成以来の5人組のバンド形態では最後の作品となりますが、正規ドラマーのJIM HODDERはback vocalのみの参加となり、ドラムは叩いていません。

5人組のバンド形態では最後の作品

Steely Danと言えば、「Aja」「Gaucho」と来て、それより前の作品は手が伸ばせていない、という人が多いようです。
自分がリアルタイムで聴いたのが1976年の「幻想の摩天楼」(Royal Scam)が最初で、その頃はイーグルスやドゥービーと並んで、ウエストコーストロックの雄として称されていました。
確かに、当時彼らが本拠地としていたのがLAなので何となく納得していましたが、そのジャズやフュージョンに近いサウンドを聴くとしっくりしてなかったのも事実です。

Any Major Dude Will Tell You(A-3)

Barrytown(A-4)

この2曲、いかにもウエストコーストロック調で、Steely Danの世間的なイメージとはかけ離れすぎて驚きます。
本作の邦題は「さわやか革命」と言う奇妙なタイトルでしたが、彼らとしては異色のこの爽やか路線を聴いて、この邦題をつけたのでしょうか。
当時のウエストコーストロックのブームに乗って、Steely Danのセールスも少しでも伸ばせればとレコード会社も考えのたか。

Any Major Dude Will Tell Youは、メンバーはDonald FagenDenny DiasJeff Baxterが参加し、Walter Beckerはback vocalのみとなりました。
Dean Parks (acoustic guitar)、David Paich (electric piano)、Chuck Rainey (bass)、Jim Gordon ( drums)と外部の精鋭たちを起用。
所謂ワークショップ方式と言うレコーディング方法です。
この後、Steely Danのお気に入りベーシストとして起用され続けるChuck Raineyが初参加し、彼らしい渋いプレイを披露。Walterは「チャック・レイニーに会ったとき、私はもうベースギターをスタジオに持ってくる必要がないと感じた」と言い、ギターに持ち替えます。
本作では、Jim Gordonが一曲を除いて全面的に参加、
Delaney & BonnieDerek and the DominosGeorge HarrisonAll Things Must Passと錚々たるロック史に残るプロジェクトに参加して来た強者ロックドラマーです。
同年にはSouther, Hillman, Furay Bandに参加したり、ジャクソン・ブラウンの作品に参加したりとセッションドラマーとしては、ウエストコーストロック系の第一人者と言える存在です。
acoustic guitarは名手のDean Parks。本作はacoustic guitarの効果的な使用も目立ち、このリマスター版も生の音色をクリアに再現しています。

続くBarrytownもフォークロック調で、Steely Danらしくない爽やかな曲調が続きます。
BarrytownではABCのレーベルメイトのPOCOTimothy B. Schmit がback vocalで参加し、爽やかさが倍化しています。
さらには後半ではJeff BaxterのPedal Steelも活躍しますが、リマスターされて各楽器の分離もよろしく、その名手ぶりが聴き取れます。

Any Major Dude Will Tell Youは今でもライブのレパートリーとなっていて、お気に入りのようです。

With A Gun(B-4)

Charlie Freak(B-5)

With A Gunは彼らとしては異色のカントリーソングとなっており、カントリーも得意なJeff Baxterが懐の広さを見せています。
Charlie Freakは哀愁あるフォーク調でシャッフルビートの曲ですが、Jim Gordonの名演の一つとして上がることの多い曲でもあります。

数年後に聴ける計算され尽くした彼らのサウンドとは違う、アンプラグド風でカジュアルな展開が楽しめ、それはそれとして貴重です。
1974年と言うと、Eaglesの「On the Border」が出た年で、これらの曲は相通ずるものあり、また曲調の捻り方はSteely Danそのものでもあります。

Rikki Don’t Lose That Number(A-1)

Rikki Don’t Lose That Numberは、Donald FagenWalter Becker (bass)
Jeff Baxter(guitar)とメンバーは3人のみで、外部ミュージシャンを大幅に起用しています。ドラムはJim Gordonで、後は
Dean Parks (acoustic guitar)
Michael Omartian
(piano)
Victor Feldman (flapamba)
Timothy Schmit (backing vocals)
となっていて、Victor Feldmanflapambaとは木琴の様な楽器でイントロで聴かれます。

イントロのリフは、ホレス・シルバーのジャズの名曲「ソング・フォー・マイ・ファーザー」のイントロをそのまま借用したものです。彼らの好むジャズとラテンの要素が見事なシティポップに昇華しています。

このアルバムを最後に脱退するJeff Baxterの切れ味の良いリードギターが光ります。Jeff Baxterはその後にDoobie Brothersに移籍、これがロック史に残る移籍劇となることは後述します。
彼の個性的なギターはセッションでも光り、1979年のDonna SummerHot Stuffでも鳴り響きます。

Night by Night(A-2)

次のNight by Nightは、当初メンバーのJim Hodderが叩いていたが、ベッカーとフェイゲンにダメ出しされ、Denny Diasがクラブで探し出した若き日のJeff Porcaroのドラムに差し替えられました。その後にTOTOを結成するDavid Paich(clavinet)と共に参加しています。Steely DanのファンだったJeffは、この誘いに小躍りして喜んだと想像します。
曲の途中でリズムだけになるパートがあり、ここでの彼のプレイはゾクゾクしてきます。
個人的には最も聞き応えのあるナンバーとなっていて、冴え渡るJeff Porcaroのドラムとファズを聴かせたソロを置き土産のように弾きまくるJeff Baxterも素晴らしく、今後の彼らの方向性を予測させる音作りです。

Parker's Band(B-1)

Jim GordonJeff Porcaroのツインドラムが聴けるのが最大の聴き物のParker's Band。Jeffは「ゴードンは僕のアイドルだった」と共演を喜びます。信任を得たJeff Porcaroが次作「Katy Lied」ではJim Gordonに代わり全面参加するのです。これはある種のLAでのドラマーの世代交代でもあり、Jimは77年には自殺未遂を図る事件も起こし、83年には母親を殺害し収監されます。一方Jeffは78年にTOTOを結成、超のつく売れっ子になります。

Pretzel Logic(B-3)

そしてアルバムタイトル曲のPretzel LogicDonald Fagen,Walter Becker のみが参加し、他は外部ミュージシャンを起用すると言う、この後のSteely Danの録音形式となるワークショップ方式が完全に実現しています。
bassのWilton FelderCrusadersのメンバーでバンドではSaxで、セッションマンとなるとBassを弾く器用な人。
ここでは2人のギタリストを抑えて、普段はBassのWalter Beckerがリードを担当、この時点では3人のリードギタリストを抱えるバンドとなった。これ以降、Walter Beckerは個性的なソロを鳴らすギタリストとして存在感を発揮するのです。
そしてブルーズ色の強いこの曲でもJim Gordonがフィルインを中心に素晴らしいをプレイを披露しています。backing vocalはTim Schmit 。他にguitarでDean Parks、pianoでMichael Omartianが参加。

ライブ活動の休止

この後、バンドはサポートミュージシャンを入れてツアーに出ますが、以下はロンドン公演の音源。
Donald FagenWalter Becker(bass)、Jeff BaxterDenny Dias (guitar)に
Jim HodderJeff Porcaroのツインドラム、Royce Jones (percussion)に、何とMichael McDonald (Fender Rhodes, vocals)が参加しています。
先ほどJeff Baxterの所で劇的な移籍劇と書いたのは、このライブと関連があります。
このツアーでMichael McDonaldと知り合ったJeff Baxterは、移籍したDoobie BrothersにMichaelを誘い入れます。
Tom Johnstonの不在で瀕死のDoobieは息を吹き返し、Michaelの活躍でグラミー賞を獲得するビッググループに脱皮します。
そしてMichaelをツアーに引き入れたのは、Jeff Porcaroだと言うから縁ですね。
このPretzel Logicでは当時は無名のMichael McDonaldが素晴らしいボーカルを聴かせています。
しかし、Donald FagenWalter BeckerJeff BaxterJeff PorcaroMichael McDonaldと何て豪華なメンバーでしょうか。
しかし、この後ライブ活動の休止を決定し、Jeff BaxterJim Hodderはグルーブを脱退するのです。

Donald FagenはMichaelをボーカルに迎えたこの曲がお気に入りらしく、復帰作の「New York Rock And Soul Revue」(1991)でもカバー。
さらに、その続編的な Donald Fagen, Michael McDonald、Boz Scaggsによる「Dukes of September」でも演奏しました。

PRETZEL LOGIC』のツアーを終えると、彼らはライブ活動からは身を引きます。
そして理想のサウンドをスタジオで実現すべく、様々なセッションミュージシャンを起用するワークショップ方式を突き詰めて行きます。
PRETZEL LOGIC』は彼らの転換期の意欲作として、ジャズ、カントリー、フォーク、ブルーズ、R&B、ラテンと様々なジャンルにトライ。
The Bandとは違うアプローチで、アメリカのルーツ・ミュージックの粋を見事に当時の最先端のロックに昇華させました。

この後、ドラマーはJim Gordonから次作はJeff Porcaro、そしてその次はBernard Purdieへと
Walterはベースを手放しChuck Rainyに任せ、ギターはLarry Carltonと言う凄玉を重用します。
そして、2作を挟んで、1977年の「Aja」と言う高みに到達するのです。


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