既成服を衣裳にするとき
新作をつくるときいつも直面する三大問題、俳優は「なぜしゃべるのか」「どこにいるのか」そして「なにを着てるのか」。そう、俳優が直接身に纏う衣裳は、いつだって大問題。ゆえに、衣裳が早々に決まって作品世界を牽引していく、というパターンもときどき起こります。
『光のない。』(2012年初演)のときもそうでした。舞台美術が決まるよりも先に、2組のカップルとあぶれた女性一人というカップリングと、ウェットスーツ(救助隊)とフォーマルな装い(演奏家)という各カップルのいでたちが決まりました。決まったというよりは、そういうことから決めていかないと太刀打ちできないくらい非常に抽象的なテキストだったため、とにかくイメージを拾って拾って、手応えのあるところから具現化していく必要があったのかもしれません。
ウェットスーツは大阪のスキューバ専門店で採寸をしてつくってもらいました。演奏家の衣装は東京・青山でヨウジ・ヤマモトとコムデギャルソンに行って選びました。
そう、この文章を読んだからというわけではありませんでしたが、日本のデザイナーズ・ブランド、案外、イェリネクの世界と親和性がないわけではない…。既成服に助けてもらった作品でした。
既成服を衣裳にするとき、地点でときどき行うのは、俳優と演出家、ときに衣裳家もいっしょに、全員でお店に行って、その場で試着をして選ぶというパターン。一日がかりですが、出演者相互のバランスを見て決定するには一番手っ取り早いです。(ただしお店の人には多少迷惑がられることも…。ごめんなさい……。)
KAPITALでは何度か。
しまむらに行ったときもありました。
HAKUIというおしゃれ業務服サイトで通販したことも。
ちなみに、規制服や靴は、一つの作品だけでなく、いろいろな作品で同じものを使うことも多いです。上の写真で安部さんの履いている靴は、『光のない。』つまり『ノー・ライト』でも使用している靴ですね。ヨーロッパでオペラをつくる大きな劇場には、衣裳だけでなく靴もオリジナルでつくる部署があると聞きますが、そう、何を着るかだけでなく、何を履いているのかももちろん大きな問題です。『ノー・ライト』で演奏家に扮したふたりがフォーマルなのに裸足なのは、生と死を行き来する作品世界になじむためでした。
衣裳や履き物はディテールが命! 衣裳についても今後このビヨンドチテンでご紹介していければと思っています。
(文:田嶋結菜)