トラペジウム-ネタバレ感想-サイコパス成長譚2
パッキリとした賛否両論
映画「トラペジウム」のレビューを漁ってみたら、賛否両論で、絶賛と否定とでくっきり分かれていた。どっちかというと否定的な感想のほうが支持されているようだ。まぁそうだろうね!
初期の映画の評で、案の定、東ゆうをサイコパス扱いしているものも多かったようで、それが許せない!と思っている人もいらっしゃるようです。
どっちもわかります。私は映画そのものの評価は賛否両論の賛の方だけど、解釈としては否の方の評のほうに近いです。
ただ、好きな人には申し訳ないけど、東ゆうはかなりサイコパス気質が強い人間なのは否定しがたいと思います。
私の解釈では映画トラペジウムは「サイコパス気質のある幼い人物が、成長して社会に適応する話」です。サイコパス気質の人間の内面と成長をここまで解像度高く、ガッツリ描いた世にも稀な作品と評価したいです。
アイドルアニメというより文学作品みたいなもんではないでしょうか。
自分は少なからずサイコパス気質強いほうなので
「あーそういうのあるある…ごめんなさいすいません」
と思いながら見ていた派です。
サイコパスとは
サイコパスはなんかシリアルキラーの殺人鬼かサイコ野郎とののしられるようなヤバいやつみたいに思われることも多いですが、これには精神医学的な定義があって…
という文化(社会)と期待されるものとのズレという相対的なものとして描かれていて、絶対悪とかそういうわけではないわけです。また、本人も苦痛または障害を引き起こす…とされています。
どれくらいの割合でそういう人がいるのか?こちらのサイトによると
だそうで、存外少ない。特に女性だと1%だそうなので、サイコパス気質の女性を主人公に据えた作品が少ないのもむべなるかな。
医学的な診断としては、以下のチェックリストがあります。
サイコパスにもいろいろなバリエーションも程度もあり、よく言われるように、社会的に成功する人物も多いです。このチェックリストに従って、東ゆうの行動を分析してみてもいいのですが、私は専門医でもないし、生々しくなりすぎるので、ベンナビにあった、より世俗的なチェックリストを引用してみます。
こうしてみると、だいたい東ゆうに当てはまりますよね…
表面上は口達者
これな!サイコパスの人は口がうまいです。これは実際に会ったことないとわからないかもしれませんが、この資質の人は表面上は社交的に見えます。とっつきやすく見えます。東ゆうも、口八丁で仲間を増やし、業界にも食い込んでいきます。高校生水準をはるかに超えた能力です。そしてこの手の人物の口車に乗ると往々にして大変なことになります。
利己的・自己中心的・結果至上主義
自分の目的のためにコンセプトをに沿って、駒を集める姿は、徹頭徹尾、利己的、自己中心的、結果至上主義と言えるでしょう。グループ崩壊の時「怖いよ…」と言われたけど、序盤の人を人とも思わず駒集めしてる姿のほうが、人間味なくて、はるかに怖いです。
平然と嘘をつく
噓つきまくりですよね。逆に東ゆうが本当のことを語ったシーンはどこなのか?ガンギマリでアイドルのすばらしさを力説した時?あの時ですら自分を納得させるための嘘の側面がありますし、共犯の工藤と話すときでも何が本当かわからず、工藤も真意を測りかねてます。サイコパス気質の人は嘘をつくのではなく、何が本当か自分でもわからないのです。行動原理とその場の適応だけで話しているので、自分でも真意がわからない。そもそも本心がない。なので内実としては未熟だったり幼稚に見えることも多いです。
共感ができない・他人を操ろうとする
これ!英語だとmanipulative っていうのかな。サイコパス気質な人は人を操ろうとします。これは本当に特徴的な資質で、そうでない人はこんなことめったにしません。東ゆうの野望はメンバーにばれてるけど、計画はバレてません。普通の人にはそもそも「人を操ろうとする」という発想がないので、なかなか理解できません。そこまで踏み込んで批判してこないのもリアリティあります。
カリスマ性
これは気質ではないので、リストにないのですが、サイコパス気質の人はしばしば、強いカリスマ性があります。どうしょうもなく人をひきつけます。何の共感も持たず、人をないがしろにして、嘘だらけで危うい人なのに人をひきつけます。これは本当に厄介です。
最後、西南北が許してしまうのが納得いかないという人も多くて、そらぁ普通許さないですよ。でも許されてしまうのがカリスマ性というやつです。
怖いですね。
サイコパスは学習する
サイコパスは絶対的な評価ではなく、程度も気質もバリエーションがあります。そしてあまり語られないことですが、サイコパスな人もまた成長します。逆に、頭が良いし、合理的なので、傍からわからないほどうまく偽装することもできます。東ゆうも夢を叶えたアイドルの姿のインタビューで息をするように嘘をついています。これはもう完全に社会に適応したサイコパスです。外面もいいので、誰も中身に迫れないでしょう。
こうなると、人格というか、もうそういうシステムとか現象みたいなものです。成長し社会に適合したサイコパスは、高い共感性を要求されない限りは、何やっても結構うまくいきます。原作者は元トップアイドルだそうですが、本人が多かれ少なかれこの素質を持ってる人じゃないとこの物語は書けないと思います。解像度が高すぎる。
この物語への賛否両論はよくわかります。こんな胸糞サイコパス野郎に共感する人が多いとはとても思えない。この物語への感想は、その人の資質と、今までの人生経験でだいぶ変わってくるでしょう。サイコパスな人に振り回された人は絶対見たくないでしょう。
自身にサイコパス要素があり、それゆえに苦労もしてきた私にとっては、アイドルという概念を借りて、サイコパス野郎の成長を描き切ったこの物語は価値がありました。
それが、世の中にとって良いことかわからないけども。