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【専門家に聞く!】インフレ・円安時代を生き抜くために、現役世代がすべきこと

物価高騰と円安が加速する中、私たちの生活はますます厳しくなり、将来への不安が高まっています。少し前であれば、老後に必要な資金は2,000万円と言われていました。しかし、インフレによって4,000万円が必要になるという説を唱える報道もあり、私たちは今「正しい知識」を持って老後を見据え、資産形成を検討していく必要に迫られています。

そこで今回は、30年超にわたり金融市場で投資実務に携わり、インフレや物価、資産形成に知見を持つ東京海上アセットマネジメント株式会社 参与 チーフストラテジスト(経済学博士)の平山賢一氏をお迎えし、この困難な時代を乗り越え、豊かな未来を築くために個人ができる具体的な資産運用やライフプランニングについて、さらにインフレ・円安時代に経営者がやるべきことについて語っていただきました。


インフレは「遠近」双方で見ることが重要

森本:ここ数年インフレが続いており、このままインフレが続いたらどうしようという不安が高まっています。平山先生はどうみていらっしゃいますか?
 
平山:インフレは、100年単位で見るのと10年単位で見ていく、つまり「遠近」で考えると、理解しやすくなりますよ。
 
数百年単位での大きな変化が今、きています。同時に数十年単位の変化も起こっている。超長期と長期の変化が重なっていると認識しておきましょう。
 
森本:「遠い」数百年単位というのは、どういうことでしょう?
 
平山:数百年単位での変化は、社会全体の構図が変わることです。
 
私たちの社会は、かつては産業社会と呼ばれ、モノの生産が経済の中心でした。しかし、現代は情報社会へと移行し、情報やサービスが重要な役割を担うようになりました。
 
たとえば、ひと昔前は、車を持っていないとデートに誘えなかった。青年時代の僕ら世代は必死に働いて、かっこいい車を買おうとしていました。しかし、今はSNSやスマートフォンが普及し、これらがないとデートに誘う手段がないという状況が生まれています。
 
このように、社会の構造が変化することで、人々の生活や価値観も変化し、求められる対象も変わってきます。産業社会から情報社会へと変化し、モノの需要が減れば、物価も上昇しにくくなるのです。
 
別の視点から考えてみましょう。かつては、木炭、石炭、石油、天然ガスといったエネルギーが、物価に大きな影響を与えていました。エネルギーは、経済活動に欠かせないものであり、その価格が上がれば、他のモノの価格も連動して上昇する傾向がありました。
 
しかし、技術の進歩により、エネルギーの効率的な利用が進み、希少性が低下しつつあります。また、大量生産・大量消費の時代は終わりを迎え、エネルギーの価格も安定傾向にあります。
 
さらに、世界の人口増加率の低下も、物価の上昇を抑える要因となっています。1960年代には、人口が毎年2.1%増加していたのに対し、現在は0.8%にまで減少しています。2050年には、人口増加率が0.5%にまで低下するという予測もあり、人口が増えればそれに伴いモノやサービスの需要も増えるという従来の考え方とは、逆の状況が生まれています。
 
これらのことから、数百年単位で見ると、物価が大幅に上昇する可能性は低いと考えられます。

東京海上アセットマネジメント株式会社 参与 チーフストラテジスト(経済学博士)
平山 賢一氏

「対立の時代」には物価が上昇する

森本:では「近い」数十年の単位はどうでしょう?
 
平山:数十年単位で見ると、世界が「仲良し」と「仲が悪い」時代を振り子のように行ったりきたりしています。これも具体例を出すと、1910年代に第一次世界大戦があり、世界の仲が悪くなって経済が停滞しますが、1920年代には世界が仲良しになって国際連盟もできて、世の中が良くなり経済も発展した。しかし、1920年代末にバブルが崩壊し、1930年〜1940年代で経済が悪化して、世界中でモノの取り合いが起こり、第二次世界大戦が勃発しました。

時を経て、1980年代末には冷戦構造が終わり、世界が仲良くなって経済状態は上向きましたが、最近はウクライナや中東で紛争が起こるなど、ふたたび仲が悪くなっていますね。
 
森本:仲が悪くなると、インフレになるということですか?
 
平山:みんな仲良しなら、安いところで購入するとか、あそこに工場を作ろうなど、自由に検討できます。仲が悪いと、「あの国からは買うな」などの制限も出てきて、全体的にモノの値段が上がってしまいます。対立の時代が物価上昇圧力として台頭し、今後も数年から十数年続くのではないでしょうか。物価の上昇期は、インフレ率の変動が激化し、物価の上下を繰り返すジェットコースター型の様相となっています。

普通預金では足りない「インフレ時代を生き抜く資産形成術」

森本:インフレ率が激しく上下するジェットコースター型の今、私たちはどうすればいいのでしょうか?
 
平山:インフレ率という物価の上昇に勝つことです。これまでデフレしか経験してこなかった。たとえて言うと、徒競走がハードル走になった感じですよ。
 
これまでインフレ率というハードルは、マイナスだったため、地面に埋まっていて、平らなトラックをまっすぐに走ればよかった。でも、今はハードルが地上に上がってきているから、それを越えながら転ばずに走っていかなくてはなりません。
 
大事なのは、ストック(資産)とフロー(収入)です。資産とは、預金、投資、不動産など、私たちが持っているお金やモノのことです。インフレは、名目上の賃金といった収入を引き上げるものの、お金の価値を下げてしまいます。そのため、インフレ率よりも高い利回りで運用できる資産を持つことが重要です。資産を増やし、収入も増やして、インフレ率というハードルを飛び越え、買う力を維持することが大事ですね。
 
森本:なるほど。
 
平山:資産運用で考えると、ハードルを超えるリターンを出さなくてはなりません。2024年8月時点でのインフレ率は前年比+2.8%、生鮮食品も含めると3.0%です。ところが普通預金の金利は、0.10%ですからね、全然足りません。つまり普通に貯金していたらインフレ率に負けてしまいます。だから、普通預金ではハードルを飛び越えられません。
 
森本:つまり投資が必要だということですね。
 
平山:株式投資は30年行うとマイナスになる可能性が低くなるため、長期で見ることが重要です。つまり20代であれば30年間は資産運用ができるので、ほったらかしにできる人は毎月、株式のファンドを買って、ほったらかしにしておくのがいいのです。

投資成功の秘訣は「メンタルバジェット」を考えること

平山:しかし性格的にほったらかしにできる人はいいのですが、損するのではと不安で眠れなくなる人も多い。投資には、自分自身がどこまでなら損をしても気にならないか・・・という「メンタルバジェット」を考慮することが必要となります。投資をしていて1年間で2割の損をすることはよくありますが、単純計算で考えると「10万円までなら損しても気にならない」人は、投資額50万円が限度になりますね。
 
しかし、積立をして少しずつ資産が増えてくると気持ちが変わります。それまで10万円以上の損をするかもしれないと思ったら眠れなかった人が、大丈夫になる。100万円の財産における「10万円」と、1,000万円ある時の「10万円」は重みが違うでしょう?
 
自分の資産額が増えてくると、メンタルバジェットも増えていくわけです。
 
森本:最近、「はぐくみ企業年金」に加入してくださった方とお話をしました。「投資をやらなくてはと思っていたけど、損をするのが怖いし、手を出せなかった。でも、勤め先が『はぐくみ企業年金』に入ったことで自分も資産形成を始められた。怖い、無理という呪縛から解かれた」というお話でした。
 
「はぐくみ企業年金」は、加入する従業員にとってはローリスク・ローリターンですし、元本保証もあるから安心して始められる。まず、そういうところから資産形成を始めて、ある程度の資産がたまったら、NISAや他の資産運用もやってみる。僕は「『はぐくみ企業年金』だけをやってください」とは思っていなくて、損を考えると寝られなくなるような人が踏み出す一歩として、ぜひ、「はぐくみ企業年金」を活用して資産形成をスタートして、ステップアップしてほしいと願っています。
 
平山:そうですね、まずは現金で生活費の3カ月分を貯める。それからローリスク・ローリターンでスタートを切って、メンタルバジェットを上げていくというのがいいでしょう。資産形成は将来使うことを前提にして、そのための資金を確保することが大事です。
 
森本:調査によると、全体の約30%が金融資産ゼロ世帯です。金融資産ゼロ世帯にとっては、1万円なくなるだけで痛みが大きく、ご飯が食べられなくなるのではとなってしまう。でも、100万円積み上げて貯蓄ができたら気持ちが変わるし、さらに500万とか1,000万円持ったら、それは心の持ちようが全然違いますね。
 
平山:先程から申し上げている通り、預金にお金を寝かせておいてもインフレに負けちゃうわけですから、その分少しでも上乗せできるよう資産運用をする。全部ではなくて、一部を投資して、あとは忘れてしまうことです。
 
だけど、忘れられない人の方が多いので、メンタルバジェットを上げるためにね、基本となる額を確保する、そのために「はぐくみ企業年金」を活用するのはひとつの手だと思います。

円安の現状と見通し「私たちはどう備えるべきか」

森本:今の円安局面は続くのでしょうか?
 
平山:円安、為替の予測は難しいです。最終的には強い国の通貨が強くなります。超長期で見ると、戦前は5分の1の円安で、終戦時は90分の1、戦後は2011年で5倍の円高になり、ひと山終わって、次の円安局面にあると考えられます。
 
ちょうど円安と消費者物価の上昇がリンクしているので、円安が原因と断定しがちですが、必ずしもそうではありません。企業の輸入物価と円安は一定の関係はありますが、円安と消費者物価の関係は常に変動します。
 
森本:円安の中で、私たち現役世代が資産形成においてすべきことを教えてください。

平山:具体的にできることとしては、たとえば、海外旅行に行く予定があるなら、行く回数×30万円を外貨にしておくとよいでしょう。そうやって、ゴールを定めて資産形成を考えていきましょう。

使うあてもないのに貯めるだけではダメ

森本:いま、ゴールを定めて資産形成をするというお話がでましたが、ゴールといえば老後資金がまさにあてはまるかと思います。老後資金の形成では、長期投資がカギになると思いますが、いかがでしょうか。

平山:とにかくダメなのは、現金がなくてはと考え、使うあてもないのにたくさん貯めておこうというやり方です。老後2,000万円問題がよく取り沙汰されていますが、公的年金もあるわけですし、実は2,000万円も準備しなくてよいという意見もあります。健康を維持し、できるだけ長く働いてお金が入る時期を伸ばして資産運用を続けていくことです。
 
ひとつの選択肢として考えられるのが、若いうちに東京で働き、東京郊外に住みながら資金を貯め、ある程度年齢を重ねてから地方に移住するというライフスタイルです。
 
東京の郊外であれば、都心ほど家賃が高騰しておらず、比較的リーズナブルな価格で住まいを確保できます。また、駅からのアクセスが良い物件を選べば、将来、地方に移住する際にスムーズに売却できる可能性も高まります。
 
その後は地方に移住することで、物価が安く、自然豊かな環境の中で暮らすことができます。さらに、住宅価格も東京に比べて大幅に安いため、より広々とした住まいを手に入れることも可能です。
 
これはあくまで一例ですが、ゴールでの買うチカラを考え、より良い方法で資産を形成していくことが大事です。
 
森本:投資と言うと、実際に何をすればいいの?という話になってしまいますが、先生のお話はとても具体的でわかりやすいです。
 
平山:株式は長期的に見ると、物価を上回ります。つまり短期的には物価に負けるけど、中長期的には物価に勝つのが株式です。ですから最初に申し上げたように、ほったらかしにできる人に向いているのです。

また、投資に対して不安を感じる人は多いけれど、基盤となる生活費の3ヶ月分を貯めれば、資産運用をしても「損したらどうしよう」と考えずに、ほったらかしにできるようになります。それからゴールに向けて買う力をつけていくようにしましょう、というお話ですね。

インフレ・円安時代に経営者がやるべきこと

株式会社ベター・プレイス 代表取締役社長 森本 新士

森本:では、経営者にとって、インフレ・円安の時に今後を見据えてやるべきことはどのようなことでしょうか?
 
平山:構造変化と循環を考えると、インフレ率の変動が激しい時代がくると考えられます。
 
経営者は
・原材料
・人件費
・資本コスト
・セキュリティコスト
この4つのコストに対応していくことが重要です。
 
森本:なるほど、経営者にとってポイントは4つ。原材料と人件費はわかりやすいですが、資本コストとセキュリティコストについて、説明してもらえますか?
 
平山:資本コストは、株主から資本を投じてもらうコストや銀行からお金を借りるコストです。セキュリティコストはこれからの時代、大きなポイントになるでしょう。
 
先ほど、紛争や戦争で物価が上がる話をしましたが、最も恐れられているのは、サイバー空間を舞台とした戦争です。ハッキングは、そのなかでも比較的目に見える形で現れる脅威ですが、その背後には、より深刻な事態が潜んでいる可能性があります。たとえば、ある国家が別の国の発電所のシステムに侵入し、両国の関係が悪化した場合、システムを暴走させるといった脅迫行為に発展するリスクも考えられます。
 
企業にとっても、サイバー空間における脅威は深刻な問題です。情報社会において、企業は膨大なデータを保有しており、それらは企業の競争力や存続に関わる重要な資産です。そのため、企業は自社の情報を守り、データを保護するためのセキュリティ対策を強化していく必要があります。
 
森本:弊社でも業務が拡大するたびにセキュリティ強化はしてきましたが、とにかくお金がかかるというのが実感です。
 
平山:専門用語でボラティリティと呼ばれる物価の変動率が、今後ますます激しくなることが予想されます。物価が一時的に下落し、安堵感に包まれる状況が訪れたとしても、すぐに再び上昇に転じる可能性は十分に考えられます。
 
物価が上昇と下降を繰り返す中、企業経営者は、常に変化に対応できるマネジメントが求められます。このような状況下では、経営者の手腕がこれまで以上に問われることになりますね。
 
森本:勝ち組・負け組がハッキリするということでしょうか。
 
平山:確かに1970年代、同じように物価の変動が激しい時には、企業は二極化していました。
 
いずれにしても、先程申し上げた4つのポイントをまず、きちんとおさえていくことです。
 
原材料の安定的な調達先を確保すること。必要な人材の確保と適切なインセンティブを付与すること。採用コストも高額であるため、一度採用した人材が長く活躍できるような会社づくりが、結果的にコスト削減につながります。
 
そして適切なガバナンス確保によって資金調達コストを削減すること。企業のガバナンス体制が整備されていれば、投資家から信頼を得やすくなり、資金調達コストを低く抑えることにつながります。さらにデータ管理体制を徹底すること、これらを柱に経営を考えていきたいですね。
 
森本:今日は本当に盛りだくさんの内容でした。ありがとうございました。 
 

平山賢一氏の著書はこちら
『物価変動の未来 ー人口と社会の先を見晴らすー』


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