競馬好きの英文学者、柳瀬尚紀さん。
競馬場で無料で配布されている、当日の出走馬情報が掲載されているレーシングプログラム(略して「レープロ」)。
そのレープロに、私の好きな『馬名プロファイル』というコンテンツがかつてありました。そして、それを書いていたのが柳瀬尚紀さん。
日本語は天才である。
柳瀬さんが日本語について語った本で、「日本語は天才である」という本があるのですが、その裏表紙には以下のように書かれています。
日本語に全幅の信頼を寄せる柳瀬さん。
その柳瀬さんが自由自在な解釈を加えた『馬名プロファイル』。
私はかつて、競馬場でこれを読むことをルーチンのひとつにしていました。
常々疑問がありました。
ただ、昔は柳瀬さんが無類の競馬好きということを知らなかったので、常々、「この柳瀬さんという人は競馬好きなのだろうか?馬券を買っているのだろうか?」という疑問を持っていました。
というのも、どの馬名の解釈を読んでも、全頭に勝つチャンスがあるように解説されているように読めたのです。当然、全頭にチャンスありと思ってしまったら、馬券なんて買いようがありません。
今手元にあるレープロから少し馬名解説を引用すると・・
どうでしょう。
このレース、結果的に勝ったのはウオッカでしたが、ドリームジャーニーも、フサイチホウオーも、この解説を読むと買いたくなります。
もうひとつ、例を挙げると・・。
勝ったのはモーリスでしたが、フィエロも要注意だし、ミッキーアイルに至っては「勝つ」と言い切っています。
競馬エッセイを見つけて疑問が氷解。
しかし後年、柳瀬さんが「猫と馬の居る書斎」という競馬エッセイを出していたことを知り、筋金入りの競馬オヤジだったことを知りました。
『馬名プロファイル』はG1開催日限定のコンテンツだったのですが、この本を読むと、柳瀬さんはG1だけではなく、しっかり平場から手を出しているほどの馬券好き、ケイバズキであることがわかりました。
そしてその買い方は独特でした。
書斎で愛猫と語り合いながら、猫万馬なるものを狙う、というスタイルです。
猫万馬は柳瀬さんの造語で、定義はこちら。
猫にあやかって馬券をとり、贅沢三昧料理を食べる。(秋なら松茸)。
そして、たびたび、猫にあやかった買い方の実践例が出てきます。例えば、
なんニャー (笑)
猫予想、すごく楽しそう(笑)
アナグラムを駆使した買い方も。
もちろん、如何に猫好きの柳瀬さんでも、さすがに全てのレースで猫に掛けた買い方はできないようです。
おお、さすが英文学者というアナグラム(言葉の入れ替え)を駆使した買い方も。
このレースでエイダイクインは人気薄で3着とまさに好走を見せるも、柳瀬さんは馬連流しでワイドを抑えておらず。愛猫とメザシを分かち合ったそう。
旨いエピソード(笑)。
他には、、
やはり狙いはアナグラムを発見したクロフネからか、と柳瀬さんは記す。そして相手に選んだ1頭、エアヴァルジャン。
この馬名プロファイルを書いたら、「そら来たジャン!」という具合に、エアヴァルジャンが連に絡みそうな気がしてきた、と。
ここまでくるとこじつけでは・・(笑)。
知性とゆるさが同居した楽しいエッセイ。
知性を端々に感じるエッセイながら、絶妙なゆるさも楽しいエッセイです。
昔レープロを読みながら、「結局どれ買えばいいのよ!?」と思っていた文章は、こういう人が書いていたんだな〜と思いました。
柳瀬さんはもう亡くなられていますが、もしご健在だったら、現役屈指の珍名馬であり猫を連想させる、オニャンコポン(今年のダービー8着の実力馬)にどのような解説を書かれたのか、気になるところです。
★実は、こちらの記事は過去記事をリメイクしたものです。
やや長過ぎたので少し短くし、出だしと締めの部分を少し変えてみました。
過去記事はこちら(↓)となります。