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「上海」を読む。(2日目・45章の内24章まで)
横光利一の「上海」を読んでいます。
一息で読めないので少しずつ読み進め、感想も分けて書いています。
全45章のうち、10章まで読んだ感想が前回記事(↓)。
今日は、少し進み、24章まで読んだ上での中途感想記事です。
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物語としては、序盤でまず、湯女のお杉が風呂屋をクビになり、銀行に勤めていた参木のアパートに転がり込みます。
参木とお杉はお互いに想いがありそう。しかし、昔の恋人・上海にはいない競子に未練がある参木は、お杉とは距離をとる。
その後、参木は銀行をクビになり、友人の兄、高重の紡績会社に席をもらい、働き始めるが、ストライキに遭遇。そして、ストの混乱の中で、謎の女・芳秋蘭を助けます。
一方でお杉の方は、上海の街角を徘徊。
この、お杉が出てくるシーンは、おそらく意図的だと思うのですが、上海の街角の描写が多い。
読んでいて、どうも、この描写が楽しみになっています。
夜のその通りの先端には河があった。波立たぬ水は朦朧として霞んでいた。支那船の真黒な帆が、建物の壁の間を、忍び寄る賊のようにじっくりと流れていった。
お杉は時々耳もとで蝙蝠の羽音を感じた。仰げば高層な建物の冷たさが襲って来た。
胡弓の音が遠く泥の中から聞えて来た。お杉は橋を渡ると、見覚えた春婦のように通る男の顔を眺めてみた。彼女の前の店屋では、べたべた濡れた臓物の中で、口を開いた支那人が眠っていた。起重機の切れた鎖の下で、花を刺した前髪の少女が、ランプのホヤを売っていた。河岸に積み上った車の腐った輪の中から、弁髪の苦力が現われると、お杉の傍へ寄って来て笑い出した。
「苦力」は、肉体労働者。
お杉は、どうやら春婦へと転落していきそう。
お杉の見ている物、又はお杉を取り囲んでいる物の描写を通じて、お杉の迷いや恐れが伝わってきます。
お杉と距離を取った参木は、彼は彼で、友人の山口の頼みでロシア人のオルガに付き合わされたり、甲谷が狙う、踊り子の宮子に振り回された末、芳秋蘭に出会います。(オルガ部分は、私にはコメディのように感じられ、宮子は現代の港区女子みたいに感じられました。)
参木と秋蘭が歩く上海の街角は、お杉の周りの上海とは別物で、洗練さを感じます。
二人は街へ降りた。石畳の狭い道路は迷宮のように廻っていた。頭の上から垂れ下った招牌や幟が、日光を遮り、その下の家々の店頭には、反りを打った象牙が林のように並んでいた。参木は此の異国人の混らぬ街を歩くのは好きであった。象牙の白い磨ぎ汁が石畳の間を流れていた。その石畳の街角を折れると、招牌の下に翡翠の満ちた街並みが潜んでいた。
「招牌」は、看板の意味。
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試みに、4回に分けて読んで感想を書いていますが、次のターンは「起承転結」の「転」あたり。
物語と描写、引き続き少しずつ楽しんでいきます。
(ぼーっと読めない小説なので、やはり少しずつしか読めない。)
<付記>
中国料理の描写がなんとも不味そう。
黄魚のぶよぶよした唇、耳のような木耳(きくらげ)が箸もつけられず残っていた。臓腑を抜いた家鴨、豚の腎臓、蜂蜜の中に浸った鼠の子。参木は曇った翡翠のような家鴨の卵に象牙の箸を突き刺して、小声で日本の歌を歌ってみた。
まあ、この場面、参木、お杉とも、おいしく食事する心情ではないので、不味そうに書いているのでしょう。