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沢木耕太郎「イシノヒカル、おまえは走った!(敗れざる者たち)」を読んだ。
数日前の日経新聞でスポーツノンフィクションが何冊か推薦されていて、これはそのうちの一冊。1976年の本。
タイミングよく古本屋で手にし、競馬関連のエピソードとして唯一収録されていた「イシノヒカル、おまえは走った!」を読んだ。
内容は、昭和47年のダービーに向かうイシノヒカルに密着取材したもので、沢木耕太郎がイシノヒカルの所属厩舎である浅野武志厩舎に住み込み、ダービー本番までの一週間を担当厩務員や厩舎スタッフと一緒に過ごしている。
なので、とても内容が濃い。
今こういう取材をする人はいるのだろうか。もしルール的に問題ないのであれば、このような密着取材をもとにした、関係者の息遣いが聞こえてくるような生々しい記事が読んでみたい。
文章の量として文庫版で45ページぐらいで、一息で読めた。
ホースマンたちが、いかに”ダービーの一日”を目指して仕事をしているか、また、ダービー馬を始めとして、熾烈な競争に勝ち残った、一握りの競走馬以外の大部分の馬たちの哀れな運命についても描かれている。
筆者は、調教中に馬たちがつけているゼッケンに”哀れ”を感じる。
哀れなのは、重賞レースに出られる馬だけは特別に紺色のゼッケンをしており、戦歴の優劣が一目瞭然にわかってしまうことだった。ダービーや天皇賞の勝利馬がやっと年五、六頭種馬として生き残れるくらいなのだ。重賞レースにも出られない牡馬など、二、三年もすれば間違いなく芝浦の屠殺場行きだ。
この内厩には桜肉が歩き回っているといってよかった。
さらっと、重いこと・でもシビアな現実が書かれている。
あと、競馬評論家の赤木駿介氏が派手な格好で登場するエピソードが面白かった。
外車に乗ってピンクのパンタロンをはいた赤木駿介が取材に来ていた。(中略)やっとインタビューを開始したと思ったら、もう終っていた。(中略)競馬評論家の取材などこの程度のものであったのか。ユメユメ予想を信じるまい、と思ったことである。
何か辛辣である。。
あまり沢木耕太郎の文章を読んだことがなかったのだが、書きたいことをそのまま書いている感じで、その点は好感を持った。
(同じ本に収録されている「三人の三塁手」も読んだが、長島茂雄の陰に隠れ早くに引退した元プロ野球選手のその後を追った取材も、筆者が取材を続けるべきか迷う姿が人間味があって良かった。)
イシノヒカルに戻る。
リアルタイムで見ている世代ではないので、Wikipediaやyoutubeで馬の背景や動画を見たが、イシノヒカルを管理した浅野武志調教師は、ミナモトマリノスの浅野洋一郎調教師の父(母の再婚相手なので、血は繋がっていないが)であることを知った。
ミナモトマリノスも古い馬であるが、自分にとっては好きだったロイヤルタッチを負かした馬として記憶に刻まれている。
先日、ロイヤルタッチがミナモトマリノスに負けた若葉Sについて少し書いたばかりだった(↓)。
浅野洋一郎師のWikipediaを読むと、管理した多くの馬の引退後について受け入れ先探しに手を尽くし、見守っているそうだ。(ミナモトマリノスは、警視庁騎馬隊に所属したそうだ。)
この本を読んでも、イシノヒカルが大事にされているのが伝わってきたが、馬を大切にする姿勢が、浅野武志厩舎から浅野洋一郎厩舎に引き継がれているのだなと思った。
浅野洋一郎厩舎の勝ち星は近年決して多いとはいえないようだが、こういう馬に愛情を持った人たちが運営する厩舎が競馬を支えているんだな、、と思った。