サン・テグジュペリ『星の王子さま』(菅啓次郎訳、角川文庫)の感想
世界を代表する名作童話。「大切なことって、目には見えない」(p113)など名文句も多数ある(新訳本なので、よく聞く言い回しと少し変わっているとは思う)。
一人の飛行機乗りが故障で砂漠に不時着すると、そこに一人の少年が現れた。「ぼくはひとりぼっちで生きてきた、ほんとうに話のできる相手が見つからないままに」(p11)。少年はその「ほんとうに話のできる相手」だったのだ。
実際の飛行機乗りである作者が、二人の出会いの場所の砂漠にこめたリアリティーを感じ取りたいと思う。無人の孤独の景が美しいということ。「家であれ、星であれ、砂漠であれ、その美しさを作っているものは目に見えない」(p123)。そう、作者はこの美しささえ「目には見えない」何かと捉えている。
それはきっと「人間のひとりひとりにとって、星はおなじ星じゃない」(p139)ことを浮かびあがらせるからだ。「きみはぼくにとって世界でただひとりのきみになる。ぼくはきみにとって世界でただひとりのぼくになる」(p107)。こんな「ずっと責任がある」(p116)という関係がそこにあるのだ。
作者は、これを自然な感覚として持っていると感じる。それが本作で繰り返し語られる「おまえって、おとなみたいな話し方をするね!」(p40)などなどの大人への嫌悪につながるのだ。
その感覚をもって彼は読者にこう呼びかける。「そこに、とても大きな神秘があるんだ。ぼくがそう思うのとおなじく、ちび王子を愛しているきみたちにとっても、どことはわからないどこかでぼくらの知らない一匹の羊が一本の薔薇(ばら)を食べてしまったかどうかによって、宇宙がもうおなじものとは見えなくなってしまうということに……。」(p149)
ここには、思いやりという以上に広く、自身を傷つけるほどに鋭い心のいとなみが語られている。誰かを愛することに、自分の世界がすでに賭けられているということ。その「真実」の立場から作者は語りかけるのだ。