住野よる『か「」く「」し「」ご「」と「』(新潮文庫)の「最後の一字」の感想
先日読んだ本作の最後の一字の感想を。未読のかたは何のことかわからない感じの記述になると思いますが、インパクト大のラスト一字の簡単でまとまった解釈が意外と見当たらないのでここで書いてみます。
まず、本作の最後の一字は「以下略」のニュアンスがあるでしょう。素敵でしあわせな語らいの時間が続いていく。唐突感のある記号の使用でも、そんなハッピームードははっきりと感じ取れるでしょう。
もちろん、「括弧が閉じない」ということが主要な意味だと思います。本作の主人公たち5人はそれぞれ「隠し事」で内面を閉じています。そんな内面を開いていく展開があることを印象づけています。
プロローグとエピローグは「隠し事」をめぐる会話と取れることもその印象を強めます。言わなくてもいいこともある。でも、大切な誰かに自分を伝えたい気持ちがある。エピローグはそんな気持ちへのエールです。
そもそも、彼らの「隠し事」はある意味で似すぎています。ひょっとしたら、人の心に鋭敏な若者はみんな彼らのような能力者かもしれない。であるならば、分かちあう驚きや共感から何か新しいものが生まれてもいい。
ラスト一字はタイトルとリンクすることで、こんなニュアンスを感じ取らせています。すっきりとした理として届けるのではなく、不思議な文章インパクトでメッセージを届けること。それが住野よるの「書く仕事」です。
追記:言葉遊びには深入りしないつもりですが、「括弧」を「各個(人)」と読みかえる発想を本作に感じます。それが「かくしごと」のもうひとつの意味にも影響を及ぼしているとみたがどうでしょうか。