僕がペーパーバックを読み始めたわけ②
私はSF作家ジェイムズ・ティプトリー・Jr.の長編のペーパーバックを読み始めた。しかし、私はそれを読むことができなかった。けっして英語がむずかしかったわけではない。むしろ辞書なしで読め通せそうだと歓喜したほどなのだ(辞書を使って小説を読むのがひどく億劫だったので)。
しかし、私は読み進めるうちにふしぎな疑念を抱く。「これは本当にティプトリーなのか」と。なぜなら中身はどう考えてもセクシームードむんむんのヴァンパイア小説という感じで、およそティプトリーの作品らしくないのだ。すぐその疑念が確信に変わる。やたら官能的にラブシーンが始まった。
私は表紙を見た。たしかにティプトリーの小説である。いぶかしんで表紙をめくり本のとびらを見る。するとそこには、ティプトリーとはまるでちがう作家の名前が記されていたのである。このとき私は夜の地元の図書館にいたのだが、おどろきが挙動にでていたことはまずまちがいなかったと思う。
私の読んでいた本は、のり付けされたペーパーバックの表紙がティプトリーで、表紙いがいはセクシーなヴァンパイア小説だった。印刷のミスを乱丁落丁などと呼ぶがこのミスを何と呼ぶかは知らない。ただ私が知っていたのは、すごくすごく楽しみにしたティプトリーがいま読めないということだ。
かくして、私は競走馬のニンジンよろしく鼻先にティプトリーの本をぶらさげられてそれを取り上げられた。「〇〇が食べたい口」で臨時休業の店の前でボーゼンと立ち尽くした気分だった。そう。これが私の「ペーパーバックを読み始めたわけ」である。実際に他を読む話は次回にまわしたい<(_ _)>
(つづく)
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