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『未来のイヴ』(ヴィリエ・ド・リラダン、創元文庫)の感想

 19世紀のフランス文学。作者は「生活?そんなものは召使にでも任せておけ」の反俗的な文句で知られる。
 世紀の発明家エディソンの許に、完璧な美女と出会いながらその俗な魂に苦悩する青年が訪れる第一巻、彼にエディソンが機械的な複製を作る計画をもちかけ、説得し、プロトタイプを見せる第二巻、プロトタイプの暮らす楽園に赴き、青年が計画を承諾する第三巻、エディソンがあらかじめ人造人間の計画を企てていた理由を語る第四巻、プロトタイプの優雅さとその構成原理が語られる第五巻、計画が実現され、「未来のイヴ」が登場し、もう一つの秘密が語られる第六巻の全六巻で構成されている。
 以上の内容が、巻頭詩にあるような「無常ヲ觀(クワン)ジテ以(モツ)テ永遠ヲ探求セヨ」(p11)という現実を超越しようとする情熱をもって語られており、それが齋藤磯雄という現代かなづかいと当用漢字の流通する日本を嫌った翻訳者によって、歴史的かなづかいと正字体で大変情熱的に日本語に移されている。
 そもそもロボットの製作が「神に對する我々の關係を我々に對して持つやうになる「存在」を、創り出せるといふこと」(p137)という、神の作りたもうた現実世界から超出する営為になるだろう。しかし、事はそれだけではない。そのニセモノと恋できるなら、それを「人生の意味」の対象とできるなら、それはまた別の現実世界の克服である。
 ダブル現実否定は真実可能か? イエスであり、ノーであるが本作の解答だ。確かに計画は実現した。だがそこに「ソワナ」というもう一人の女性の意志が関与している。彼女はこう言ったはずだ。「唯一、人の意志は全世界に優りますもの」(p414)。これを言い換えよう。きっと人の意志の重ね合わせが現実世界を変容させる力となるのだ。

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