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嘘なら、夢ならよかったのに(前編)【夢見る恋愛小説】

どうして僕たちは出逢ったんだろう?

出逢わなければよかった?
ほかの未来があった?

そんなことできた?

今でもたしかに、こんなに愛しい気持ちだけはっきりとここにあるのに…


~※~※~※~


ぼくと兄は家の近くにある、
平凡な田舎の教会に花の手入れに来ている。
頼まれた訳でも雇われているわけでもないが、代々我が家がやっている。

ぼくと兄は少し年が離れている。
ぼくはまだまだ子どもだけど、
兄はもうすぐ成人になるくらいだ。

ひとしきり手入れが済んで、
そろそろ帰ろうかというとき
教会の扉が少し開いていることに気付いた。
ぼくは気になって隙間からのぞく。

田舎の薄暗い教会の中。
窓から差し込む明かりに、スポットライトのように照らされた祈りを捧げる後ろ姿。
とてもここには似つかわしくないような
品のある凛としたオーラが隠しきれてない。
それはぼくでも知ってるものに似ていたので、ピンときた。
この付近の領土を治めるおじさんの家にあった、分厚い有名な絵本に載っていた。
でも、なぜこんなところに…?

「ねぇ兄さん、ちょっと見て!
    プリンセスみたいな人がいる…!!」

何言ってんだという顔でぼくの後ろから
教会の中を覗き込む兄。

「ほんとうでしょ?!」

『しっ!』
兄がぼくのくちを手で覆った。
兄も声を出さずに驚いた顔をしている。
声を出してはならない、ぼくたちの存在に気づかれてはならない。
ぼくたちなんかが関わってはいけない。
兄がくちの前で人差し指を立て、
しゃべらないよう促しながら
小さな声で言った。
『…本物のプリンセスだ。
   さぁ、今のうちに行こう』
ぼくは静かに、大きく頷いた。


扉から離れ、持ってきたバケツとスコップを持ち、歩き始めたそのとき…

『…まってください!』

呼ばれたからには振り向くしかなく、
兄とぼくはゆっくり振り返る。

「わぁ…!」
思わず声が出てしまった。
薄暗い教会の中でもキラキラとしたオーラを放っていたのに、太陽の下にお出ましになるとその何倍も光輝き、まぶしいとさえ思うほど綺麗なプリンセス。

兄に頭を上から抑えられ、
ぼくたちは急いで低い姿勢をとる。
そう、ぼくたちは土まみれのバケツとスコップを持った平民なのだ。

『違うの、今はそういうのいらないわ。
   小さい時にこの教会の初夏に満開になる
   たくさんの薔薇を見たの。
   それが忘れられなくて、1人で来たの。
    もしかしてあなたたちがお花をお世話
    してくれているの?』

ぼくと兄は、顔を見合わせてはにかんだ。
『ここの花は、代々我が家が手入れをさせていただいております』
兄が答えると、プリンセスの表情が花が咲いたように明るくなった。
『ほんとうに!?出逢えてよかったわ!
    次にあの薔薇がたくさん咲くのはいつ?』
なんてタイミングが良い。
今日は、今から咲く薔薇の手入れをしたところだ。
『ちょうどあとひと月ほどで見頃ですよ』

『まぁ、楽しみだわ!
    もう1度あれを見たいのよ、
    私それまでしばらく
    こっそりここに通うわ!』

それから興味津々で目を輝かす彼女に、
今咲いている花の説明をした。
また様子を見にくるわと言って、
お忍びでやってきた行動力あるプリンセスは
帰っていった。

「ねぇ兄さん、本当にまた来るのかな?」
さぁな?と答えた兄さんも、
それを聞いたぼくも想定外のプリンセスの
再来に期待しているのは同じだった。


~※~※~※~


これがぼくたち3人の出逢いだった。


奇跡というのは重なってまた奇跡を起こし、
長くは続かないものだったりする。

不運というのはなぜか連鎖し、
人は大切なものを失ったりする。

それでも時間やそれ以外の何かが人を癒し、
いつかまた繰り返す…

ねぇ兄さん?
運命には逆らえないけれど、
今日という日をぼくなりに精一杯生きているよ。

今年もそろそろ、薔薇が咲きそうだよ。
見てくれているよね?



to be continued…


~※~※~※~※~※~

このお話を読むときに、BGMとして
聴いてほしい今回のテーマソングはこちら↓

https://youtu.be/JqE-6Ptvnbg


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